24回 マンガ部門 講評

日本のマンガ、青年期の終わり

日本のマンガは今や「アンシャン・レジーム」をバックミラーに捉えた。否応ない電子媒体への市場の推移により、雑誌だけがプラットフォームではなくなった今、「少女」「少年」「一般」というような、かつてのジャンルの枠は溶解しつつある。読み手が「おもしろいかどうか」だけで紙媒体より手軽にマンガにアクセスできるようになったことは、マンガにとっての幸せである。その変化のなかで、いわゆる「ヒットの法則」は以前ほど確実なものではなくなりつつあると感じる。「本当におもしろいこと」をその手に握っている描き手だけがこれからを生き続けていくのだと思う。さらに、電子媒体ネイティブ世代の描き手が着実にメインストリームのプレイヤーとなりつつある。「潮目」は、大きく、確実に変わった、ということを、ここ3年の審査ではっきり感じた。もはやそこでは名も実績も問われない。これをチャンスと捉えられる描き手が次の時代をつくっていくのであろう。セールスだけをマンガの評価軸とはしない、というのが文化庁のメディア芸術祭である。応募作品は誠に多彩であり、「マンガの今」を感じることができる。創作物、ことに安価で身近な日本のマンガの「今」とは、まさに「人々の置かれている状況の反映」である。今回の審査で私が感じたのは、良くも悪くも「地に足」「現実への真摯な態度」だった。浮かれていない、といったらいいだろうか。マンガが読み手の裾野を広げたということは、実社会に生きる、より多くの人々の思いを汲み取っていくということだ。「大人になること」と言い換えてもいい。マンガは日本において「青年期」を超えつつある。マンガの意味や存在価値は「旧体制」から明らかに変容した。受賞作品はもとより、そう感じさせる作品に多く接した令和2年のマンガ部門だった。

プロフィール
西 炯子
マンガ家
12月26日、鹿児島県生まれ。1988年に小学館プチフラワー3月号にて『待っているよ』でデビュ-。代表作に『STAY』シリーズ(2002~06)、『電波の男よ』(2007)、『娚の一生』(2008~12)、『姉の結婚』(2010~14)などがある。『娚の一生』は平成22年度[第14回]文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品となる。マンガ作品以外に小説の挿絵なども手掛ける。2006年、『STAY~ああ今年の夏も何もなかったわ~』が古田亘により実写映画化され、15年、『娚の一生』が廣木隆一により実写映画化される。現在、『月刊flowers』にて『初恋の世界』、『ビッグコミックオリジナル』にて『たーたん』などを連載中。