第22回 エンターテインメント部門 講評
エンターテインメントの新機軸とは
文化庁メディア芸術祭が応援すべきエンターテインメントとはどのようなものか。言葉のうえでの定義を擦り抜けていくものがエンターテインメントである以上、この問いに答えることは容易ではない。ただ、『チコちゃんに叱られる!』と『TikTok』が大賞を争った論議は有意義なものに思えた。『チコちゃんに叱られる!』は長く続いてきた日本の「お茶の間」がまだまだ健在であることをあらためて浮き彫りにした。この作品の素晴らしさは、これまでの「日本」のマスコミュニケーションの延長線上にありながら、新しい技術による新しいやりとりを生んでいる。ただ、今後例えば人々の文化背景が複雑化になっていったとき、このような「ウケ方」が今後の社会でも続くのかまではわからない。一方、『TikTok』にはエンターテインメントの世界性を問うものとして審査委員のすべてが強い興味を抱いていた。しかし、応募はJapanチームによるものであり、国境を超えた『TikTok』そのものの力をどう捉えて展開しているのか、というところまでは不明であった。つまり、「日本の公共放送」と「インターネット上の日本」のバトルになったわけだが、いずれにしろ問題は「大きな背景を持たなければこの場所に立てない」ということだったのである。メディア芸術祭は、日本のエンターテインメントにとっての2018年という年を、そのように記憶させることになった、と言っていいだろう。ここで最初の問いに戻る。メディア芸術祭が発足した1997年ならば、来るべきネット社会のなかで日本のエンターテインメントはどうあるべきか、世界で負けないコンテンツを生み出すにはどんな力を育めばよいのか、といった基準から新しいつくり手を世に送り出すための一助になればよかったのかもしれない。しかし、ネット社会はとっくに到来し、エンターテインメントの実験も世界中で無数に行われているのだ。メディア芸術祭は、新たな方向性を打ち出す時期に来ている。自らの存在証明とともに。