第18回 アニメーション部門 講評
アニメーション技術の進化と、「個性」という表現の省察
今年も国内外から才能豊かな長編アニメ、TVシリーズ、短編アニメーションが集まり、アニメーション表現の奥深さを再確認しながら、新しい表現の扉を開ける行為がいかに大変になってきたかを痛感している。国内外の作品のレベルの差がプロ・アマ関係なく、均衡していることと、少々個性が似通ってきている点など、その辺りは国境が無くなり世界が更に一段と身近になってきたことが関係していると肌身に感じる。ただ、短編作品は特異性を発揮できる表現分野だと認識しているが、通年から比較してみると表現の振り幅が弱くなった印象を受けた。個人でCGIが使えることや、ネット上に溢れているアニメーション作品や映像作品を、容易に鑑賞できる時代に、独創性のある形式と主題に対する省察と観客との共感をどう導き出すのか。いつの時代もどの分野でも表現を目指す以上、浮き彫りになる問題点であるが、より一層考慮しながら創作に挑まなければならないと、作品を通して感じている。その中において、今回受賞した大賞作品『The Wound』は、人間の中に住まう自我との対話という、長年先駆者たちが挑戦してきた主題を独自のスタイルで表現豊かに紡ぎ出した作品であった。新しい表現の扉を開ける鍵が、身近にあったという好例である。やり尽くされているからではなく、それをどう磨き、自分でしか感じられない世界をどう形にし、伝えるか。表現の根本である独創性を磨く目を鍛えたいものだ。自分としては、『映画クレヨンしんちゃん「ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん」』『キルラキル』『ピンポン』などのリミテッドアニメの進化系に、勢いと、良い意味での振り切った演出手法というアニメーションでしかできない表現の魅力があり、楽しむことができた。
プロフィール
森本 晃司
1959年、和歌山県生まれ。『AKIRA』の作画監督補佐などを経て、監督代表作に『MEMORIES「彼女の想いで」』『EXTRA』『アニマトリックス』『次元爆弾』『SHORT PEACE』のオープニングなど。『次元爆弾』は2011年にパリ・カルティエ財団現代美術館で開催された「メビウス─トランスフォーム展」にて特別上映、「Little Tokyo Design week」(ロサンゼルス)でも展示上映された。11年にフランスのインタラクティブWEB広告『Attraction/魅力』でカンヌ・インターナショナル・クリエィティビィティ・フェスティバルにてサイバー部門銀賞を受賞。13年LEXUS社とハリウッドのワインスタイン・カンパニー社によって制作された『LEXUS SHORT FILMS』の作品「A Better Tomorrow」のアニメーションパートに監督として参加。第66回カンヌ国際映画祭にてワールドプレミアでリリースされた。同年初の舞台演出として『羊人間012』の脚本/演出を務める。14年、世界的に活躍する、インストゥルメンタル・ポストロックバンド『MONO』の新譜の15秒ティーザーを監督した。