14回 マンガ部門 講評

愛着を持って活写する「力」

われわれ読者がまだ見ぬ世界、アレキサンダー大王の歴史記述者となる人物を少年時代から描き起す『ヒストリエ』、かたや幕末日本の激動に立ち向う群象を世界的な視点からギャグ化した『風雲児たち 幕末編』、ともにスケールの大きい遠大な物語だ。大賞候補に残ったこの2作に共通するのは、正面から歴史に挑む姿勢と、綿密な時代考証により登場人物と時代をよりリアルに、しかも愛着を持って活写する「力」だ。落語に例えれば『ヒストリエ』が新作落語、『風雲児たち 幕末編』が古典落語といえようか。謹差で新しいマンガ世界を切り拓く面白さにあふれた『ヒストリエ』が大賞に決定したが、『風雲児たち 幕末編』は今の日本に必要な、啓蒙の書であり歴史書だと思う。優秀賞に選ばれた作品群もマンガの新しい表現に挑んだ力作であり、エンターテインメントとしてのマンガの面白さを選者として堪能できた。

プロフィール
かわぐち かいじ
マンガ家
1948年広島県生まれ。明治大学在学中の68年『ヤングコミック』にて『夜が明けたら』(少年画報社)でデビュー。『黒旗水滸伝 大正地獄編』(竹中労原作)、『Eagleイーグル』『はっぽうやぶれ』など代表作多数。『アクター』『沈黙の艦隊』『ジパングZIPANG』で第11回、第14回、第26回講談社漫画賞、『太陽の黙示録』で第51回小学館漫画賞、第10回文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞を受賞。現在、新人賞受賞原作を漫画化した『僕はビートルズ』(藤井哲夫原作)を連載中。