第18回 エンターテインメント部門 講評
オルタナティヴ・フューチャー達の鼓動
メディア芸術とは一体何だろう? 応募作品を具(つぶさ)に見れば見る程、その把握できない伸びしろに圧倒される。数百の作品を浴びるように鑑賞し、脳内をメディア芸術らしき世界一色に塗り潰すと、その地平に浮かび上がったものがある。それは、メディアでも、テクノロジーでもなく、生身の人間だ。耳を澄ますと聞こえてくるアーティストの息づかい、気配として佇む作家の残り香、透かし見ると浮かび上がる手垢、血痕......。アーティストの眼差しや想念が創造の光となって、テクノロジーを超越し、立ち上がるかのようだ。新たなる触媒も新奇な技術発明も、創造の主が利用する道具、そして器に過ぎない。ロックアートも洞窟壁画も、ナスカの地上絵もピラミッドも、神話を背負った太古のメディアアートだととらえることができるが、遥か以前からメディアもテクノロジーも、イマジネーションを具現化するひとつのツールに過ぎないのである。想像力は創造力になり得る、つまり未来を現実化する力こそが、メディアアートにとって最も重要なアビリティではないか? 今回入賞したさまざまな作品群を感じて欲しい。光ファイバーを駆使したカメラ兼映写機を発明した五島一浩の『これは映画ではないらしい』、電磁波をセンシングし、可視化/可聴化した坂本龍一と真鍋大度による『センシング・ストリームズ―不可視、不可聴』、GPSと世界地図でゲームの中の仮想世界を現実の世界と融合したGoogle's Niantic Labsの『Ingress』、地方商店街の看板の手書き文字を保存しようとする『のらもじ発見プロジェクト』―。そこにはステレオタイプな未来像など軽く打ち破ったオルタナティヴ・フューチャーたちが、鼓動を刻んでいるはずだ。
プロフィール
宇川 直宏
現在美術家/京都造形芸術大学教授/DOMMUNE主宰
1968年生まれ。映像作家、グラフィックデザイナー、ミュージック・ビデオディレクター、VJ、文筆家、京都造形大学教授、“現在美術家”など、多岐にわたる活動を行なう全方位的アーティスト。2010年3月に個人で開局したライブストリーミング・チャンネル「DOMMUNE」は、開局と同時に記録的なビューアー数となり、国内外で話題を呼ぶ。「DOMMUNE」は、平成22年度[第14回]文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。