17回 エンターテインメント部門 講評

表現素材と表現手法の再認識

メディアの態様が進化変貌している中で、応募された作品にはエンターテインメントとしてどのように表現していくかの思考の起点が、表現素材と表現手法を再認識したことにあったのではないかと強く感じた。エンターテインメント部門は、ゲーム、映像作品、ガジェット、ウェブ、アプリケーションなどと、どのジャンルに属するのかと迷うほどに混沌としていたが、各々の作品は考え方や狙いがとてもピュアで、表現の仕方も奇をてらわずストレートなものが多かった印象を持っている。その中でも『Sound of Honda / Ayrton Senna 1989』は審査委員全員の高い評価で迷いなく大賞として決定した。この作品は表現素材であるアイルトン・セナの走行データに着目し、光と音で当時の情景をよみがえらせることができるのでは? とデータを再認識した着眼点がとても秀逸で、元のデータを巨大インスタレーションへと変貌させたチームの総意が熱く伝わってくるプロジェクトである。審査区分としては「ゲーム」ジャンルであった、展示型の『スポーツタイムマシン』も、過去の自分の走行データやスポーツ選手のデータと一緒になって競う点で、基礎データの再認識を行った作品といえる。『プラモデルによる空想具現化』や『燃える仏像人間』なども、確立した従来の表現手法に拘って時間を掛けてじっくりと制作された作品で、テクノロジーのあり方を問う姿勢が見られた。一方、驚きを感じるような新しさを示すゲームが少なかったのは残念であったが、審査委員会推薦作品の『龍が如く5 夢、叶えし者』などは、テーマ背景と新たにメディア展開できる可能性を示した作品として最後まで議論された。松尾芭蕉の句「閑さや岩にしみ入る蟬の声」から、人はそれぞれに情景を思い浮かべる。人は記憶とともにイメージする能力を有しているのであるから、過剰にデータを浴びせるのではなく、基礎的なデータを再認識し、研ぎ澄まされた必要最小限の情報での表現を模索し挑戦して欲しいと実感した。

プロフィール
岩谷 徹
ゲームクリエイター/東京工芸大学教授
1955年、東京都生まれ。77年に株式会社ナムコ〈現:株式会社バンダイナムコゲームス〉に入社。80年、ビデオゲーム『パックマン』を制作。『パックマン』は「食べる」をテーマに制作され、世界中で高い評価を受けた。2005年には世界で最も成功した業務用ビデオゲーム機としてギネスブックから認定された。『パックランド』『リッジレーサー』『アルペンレーサー』『タイムクライシス』など50タイトル以上をプロデュースする。07年より東京工芸大学芸術学部ゲーム学科教授。日本デジタルゲーム学会理事。株式会社バンダイナムコゲームスフェロー。著書に『パックマンのゲーム学入門』(エンターブレイン、05年)がある。