第14回 アート部門 講評
社会と人々の関係を創造的に開くアートの役割
海外からの応募が多いアート部門だが、今年度はその比率が43パーセントとこれまでになく高まった。映像、デジタルフォト、グラフィック(平面)、Webでは、全体的に既視感を伴うものが多く見られたのに対し、インタラクティブアート、インスタレーションでは、日常化する技術とそれによる社会の変容を反映する作品に新たな傾向を見出せた。
後者の2種類が表現メディアや方法を限定せず、むしろ複数のメディアや領域の連結を許容するためと思われる。つまりアートの表現が、既存の技術、美学、表現方法に収まらず、より多様化しつつあり、それ自体がメディア芸術の本質的特性の1つであることが改めて確認できたように思う。 受賞者決定においては、審査員の票がほぼ重なったが、それは受賞者レベルとそれ以外との差が歴然としていたことを意味する。大賞作品は『The EyeWriter』と2つに意見が分かれた中で選出された。受賞作の傾向は大きく2つに分けられる。1つめは完成度が高く、空間的・知覚的インパクトを持つ作品。しかも単なるスペクタクルではなく、距離を置いたまなざしを保つもの。2つめに作家性から離れ、情報共有、DIY*など日常から広く公共へと向かうプロジェクト。両者とも観客の参加を促す点では共通している。
最後に全体として、技術の先進性よりも新旧の技術をいかに再発見・編集し得るかという、より成熟した方向にシフトしていること、アートが社会と人々の関係を異化し、より創造的に開いていく役割を持ち始めたことを実感した。
*DIY......Do It Yourself の略語で、自らの手で生活空間をより快適に変えようとする概念のこと。
プロフィール
四方 幸子
メディアアート・キュレーター
京都府生まれ。メディア芸術コンソーシアム構築事業企画ディレクター。東京造形大学特任教授、多摩美術大学客員教授、IAMAS 非常勤講師。情報環境とアートの創造的関係を横断的に研究、展覧会やプロジェクトをキヤノン・アートラボ(1990-01)、 NTTインターコミュニケーション・センター[ICC](04-10)などで実現。主な企画に「アモーダル・サスペ ンション」「polarm」(YCAM)、「MobLab」(実行委員会)、「オープン・ネイチャー」「ミッションG:地球を知覚せよ!」(ICC)など。 PrixArsElectronicaほか審査員を務める。