第23回 アート部門 講評
メディアフォーマットと身体性の変容
文化庁メディア芸術祭アート部門の選考委員を過去に3年間経験してから約4年が経ち、今回初めてアート部門の審査に関わらせていただいた。この5年間で、大きく変化した流れがあるとするならば、審査基準のなかでカテゴリーの分類をなくそうとしている点で(実際の作品形態の分類は存在している)、それによって作品を総合的に分析することが可能になり、より作品のイメージの問題へと議論を深めることができたように思う。人工知能(AI)、バイオアート、3Dモデリングなどが用いられる作品はもはや目新しいものではないが、その作品表象に至る実現方法や、作品の問題提議に対しての成熟度の高い作品が審査上の焦点となった。その意味で、ソーシャル・インパクト賞を受賞した、アメリカ人アーティストLauren Lee McCarthyによる『SOMEONE』は、現代テクノロジーと人間の関係を作品化することで、観客が現代人の日常生活を疑似体験し、現代の人間同士の関係のリアリティをも露わにしてしまう意味で社会的批評性の高い作品であった。一方で、『SOMEONE』に代表されるような、既存のメディアやテクノロジーを前提とした表現形態は、多くの作品制作の主流となっており、そのこと自体が作品の強度を弱めている印象も若干持った。現代テクノロジーが身体化された、デジタルネイティブと言われる世代によって、メディア受容の感受性が変化していることを実感する一方で、全体の応募作品のなかに、得体の知れない理解不能な作品との出合いは少なかったように思う。そのなかで大賞を獲得した米国出身のAdam W. BROWNによる『[ir]reverent: Miracles on Demand』は、バイオメディアを用いながら、キリスト教の大きなテーマから、アートの潜在的な問いを投げ、広義の「メディア」を含蓄した点で異彩を放っていた。
東京都生まれ。主な企画に「映像をめぐる冒険vol.5 記録は可能か。」(2012−13)、「高谷史郎 明るい部屋」(2013−14) 、「アピチャッポン・ウィーラセタクン 亡霊たち」(2016−17)、「エクスパンデッド・シネマ再考」展(2017)、「[第2−11回]恵比寿映像祭」(2009−19)など。現在、2020年2月開催予定の第12回恵比寿映像祭を準備中。。