第18回 アニメーション部門 講評
新たな時代へ
文化庁メディア芸術祭アニメーション部門の審査委員を務めて2年目。今年は主査も担当した。いずれにしても作品の審査や審査会の進め具合など、ある程度は要領を得てきた感がある。ここでは短編も長編も、インディペンデント作品も商業作品も、一般作品も学生作品も、CGも手描きも、また国内外を問わず、ともかくアニメーションはすべて一部門で総合的に審査・評価し、賞を定める。そのデメリットは感じつつも、この方式の良さやおもしろさを改めて強く認識した。
良さの上での課題もある。例えば「劇場アニメーション、テレビアニメーション、オリジナルビデオアニメーション(OVA)」か「短編アニメーション」かの審査区分は応募者が決めることになるため、審査する側としては「短編」での審査がより妥当と思われるものが「劇場・テレビ・OVA」に応募されていたりもするし、間口の広い割にはそもそも「アニメーション部門」ではなく「アート部門」や「エンターテインメント部門」に応募されたりすることもある。筒井康隆の言に依ればSFならぬ「"アニメーション"の浸透と拡散」なのかも知れないし、W. ペイターの言を借りれば音楽ではなく「すべて芸術は絶えず"アニメーション"の状態に憧れる」ことなのかも知れない。ともあれアニメーション部門の審査に携わるとアニメーションの多様性や可能性を深く実感する一方で、その社会的認知や領域的独立性が高まるとともに、映画祭や芸術祭などにおけるアニメーションはあるひとつの枠組みの中に追いやられて行くような印象を持たざるを得ない。
とはいえ本芸術祭アニメーション部門は確実にアニメーションの量的・質的拡大と多様性の高まりを捉えてきている。昨年は海外作品の長編、それもドキュメンタリーアニメーションが大賞を受け、新人賞は日本の若手短編作家が独占したが、今年も海外の作品、しかもほとんど新人と言ってもよい若手作家の短編が大賞を受賞した。区分を超えた総合的審査であり、日本国文化庁が設けた賞であるが国・地域を問わず応募されるので、これは当然のことかも知れないが、多くの人手と予算で作られる長尺作品と比べて不利が否めない短編、しかも海外作品が昨年に続き大賞となったことはこの芸術祭の審査の特色や国際的な広がりを示したといえるだろう。また若手作家の受賞はこの分野における新たな才能の台頭が並々ならぬものであることの証でもある。確かに新人離れした巨匠の風格すら感じさせる逸材であった。昨年の講評でも触れたアニメーション制作のデジタル化が成熟し、一方でこの分野の高等教育の拡大もそれを支えているといえるだろう。
優秀賞・新人賞は日本の商業アニメーションの健在ぶりを示した。『映画クレヨンしんちゃん「ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん」』は毎年多数のシリーズが製作され続けるプログラムピクチャー的な作品群からも珠玉の作品を数多く生み出すという日本のアニメーション界の象徴的な一編であり、『ジョバンニの島』は社会派的なジャンルにおいても良質な作品を作り上げる日本のアニメーション界の地力を見せた。新人賞の山田尚子監督は既に実力派監督の呼び声も高いが、日本のアニメーションの独自性や多面性を示すジャンルのひとつである日常系を代表し、また女性クリエイター躍進のシンボルでもある。短編は優秀賞・新人賞ともに海外勢が制したが、いずれ劣らぬ傑作で、特に新人賞はこの世界での学生作品・若手作品の質の高さを示すものとなった。
特筆すべき点は功労賞で、アニメーションの分野からは渡辺泰氏が受賞した。これまで作家・クリエイターの顕彰は多数に上り、近年では技術スタッフの顕彰も始まっていたが、この分野では批評家や研究者の顕彰はほとんど皆無と言ってよい状態だった。大賞・優秀賞・新人賞・功労賞を通して眺めてみると、本芸術祭もアニメーションの世界も新たな時代に入ったといえるのかも知れない。