18回 アート部門 講評

メディア芸術とは?

この3年間、文化庁メディア芸術祭のアート部門審査委員を務めた。しかし、当初から予想していたとおり、やはりメディア芸術が分からないままであった。私にとって、作品を作るということは、何らかの形で「メディア」を使うということになる。これは、そのメディアが写真であれコンピュータであれ、私の持っている能力の延長線上にあるメディアを用いて作品を作るという意味においてである。これは、どんなアート作品でも共通で、アーティストは必ず何らかのメディウムを使って作品を作ることになる。
だとすると、タイトルの「メディア芸術とは何なのだろうか?」というこの問いは、私にとっては、「芸術とは何なのだろうか?」という問いと同義になる。
そして、そのことを基準にこの3年間、審査委員としてメディア芸術祭に応募される作品を見てきた。そこで感じたのは、応募に頼ってさまざまな形態のあらゆる作品を集め、その中から新しい意識の作品を見つけ出そうとするだけでは、メディア芸術祭自体の存在意義がなくなるのではないかということだった。新しい意識の作品を見つけるといったことは、特に労力を払わずとも、インターネット上では、簡単にできる行為で、既に当たり前のことだ。何かを発表したければ、インターネット上で公開し、そして誰もが簡単に作品へアクセスすることが可能になる。では、そのような環境の中で、何をすべきか?それを考えると、やはり新たな価値観を作り出すような作品を見つけ出し、今後発展させていくべき方向性を作り出すような機会として、このメディア芸術祭が発展していくことが必要だと考える。

プロフィール
高谷 史郎
アーティスト
1963年生まれ。84年より「ダムタイプ」のメンバーとしてパフォーマンスやインスタレーションの制作に携わり、ヴィジュアルワークを総合的に担当。主な個人的活動に、坂本龍一オペラ『LIFE』の映像ディレクション(99年)、気候変動について考えるための北極圏遠征プロジェクト「Cape Farewell」(イギリス、2007年)への参加、同年坂本龍一との共同制作インスタレーション『LIFE - fluid, invisible, inaudible...』(山口情報芸術センター[YCAM])、パフォーマンス『明るい部屋』をTheater der Welt(ドイツ、08年)にて制作・上演、中谷芙二子との共同制作『CLOUD FOREST』(YCAM、10年)、新作パフォーマンス『CHROMA』(12年)をびわ湖ホールにて制作・上演など。