第20回 マンガ部門 講評
審査委員会推薦作品の後ろにあるもの
審査に参加するようになって、思ったことがある。文化庁メディア芸術祭では、受賞作品はもちろん審査委員会推薦作品の一つひとつにも注目したほうがよい、ということだ(恥ずかしいことに、私はそれほど注目していなかったのだ)。最終審査会では、事前に作品を読み込む過程で、審査委員それぞれのなかに生まれた推しのような作品についてもしっかりと共有される。ひとりで読んでいたときには気づかなかった魅力に気づくこともあり、議論はどんどん熱を帯びていく。こうして、今年度も大賞をはじめとする錚々たる受賞作が決定したわけだが、29の審査委員会推薦作品もまた議論が尽くされたうえで"決定"したのである。審査委員会推薦作品には「贈賞理由」が付されないので、特に2016年らしいと感じたいくつかの作品について、ここで言及しておきたい。『腐女子のつづ井さん』は腐女子をフィーチャーした作品が増加するなかで、突出した魅力を放っている。自虐がなく、自己肯定感が強い、という新しい主人公を提示したのがその大きな理由だろう。大好きなことがあってそれを分かち合える友がいるという、ただただ幸せな日々が描かれていく。キャッチーな題材でありつつ"多様な生き方を肯定する"という普遍的かつ今日的でもあるテーマを(抜群のギャグで)表現している。また、フランスの作品『PHALLAINA』は、スマートフォンの画面を横にスクロールしていく操作性が、海洋生物にまつわる伝説という物語とシンクロしており、デジタル作品の可能性を強く感じさせた。受賞作については、ここではほかの審査員にお任せするが、私からもひとことだけ述べさせていただく。今年度は大賞の『BLUE GIANT』、優秀賞の『有害都市』など作者の"うまさ"が際立つ作品が多かったように思う。個人的に普段は強烈な独自性のあるものや変化球につい目がいくのだが、今回、作者が熱を持って、技巧を凝らし、正攻法で描き切ろうとする作品の魅力を改めて感じた。