22回 アート部門 講評

バイオロジーがメディアアートの次なる課題となる理由

審査委員への打診は、うれしい驚きでした。なぜなら、私は主にアートとバイオロジーに取り組むアーティストであり、日本人ではない初の審査委員だと思ったからです。そして、文化庁メディア芸術祭の選考・審査の過程に関わり、賞が授与される経緯とその理由を知ることは楽しみでしたし、大変興味がありました。
文化庁メディア芸術祭のアート部門は、非常に特殊です。なぜなら、ほか多くの芸術祭では主催者によってトピックやテーマが設定されますが、同芸術祭ではそうではないからです。中立的な立場で作品募集を行い、アート部門だけで2,500を超える大量の作品が審査委員のもとに押し寄せてきますが、それは当然の結果といえるでしょう。絵画、映画、写真、サウンド、ビデオなどの古典的なメディア作品から、インタラクティブインスタレーションやネットアートといった「新古典的」なもの、さらにバーチャルリアリティや人工知能などにフォーカスした最先端でテクノロジーベースのものまで、作品は多岐にわたります。なかでも、VRや(それほどのレベルではないにせよ)AIを扱った作品は強い「文化的記憶喪失」を感じました。文化庁メディア芸術祭がスタートした20年以上前に、アーティストたちがこのようなトピックやテクノロジー、そしてさまざまな問題を扱っていたことは意外なことではありません。しかし、テクノロジーがより利用しやすくなっても、アーティストの取り組みや批判的な視点はそれほど進化していないばかりか、総じて後退しているとさえ思えるのは驚きです。メディアアートには、形式化し反復されるという、ある種の傾向もあるようです。私たちは、メディアアートが保守的なものになったり、オーソドックスに陥ったりしないように、注意を払う必要があります。私たちは刺激的な時代を生きています。コンピュータと情報技術が20世紀をかたちづくったように、21世紀はバイオロジーとその応用の世紀になる、または、すでになっているといわれています。しかしこれは、メディアアートとどのような関係があるのでしょうか。身体とメディア、感覚と装置の距離は着実に縮まっています。映像を例に挙げると、映画に始まり、テレビを経て、コンピュータやスマートフォンの画面へと、どんどん体に近くなってきています。しかしこういった「人間の拡張」は、サイボーグやオーグメンテッド・ヒューマン、VRといったテクノファンタジーにおいて、自然の限界を超えていくでしょう。同時に、生物科学は急進的な変貌を遂げています。つい最近まで、生物科学は厳密には分析科学であり、解読し、観察し、分類することしかできませんでした。つまり、読むことしかきないメディアだったのです。しかし、CRISPR/Cas9といったゲノム編集ツールの登場により、現在では、根本的なレベルにおいて生命を「書く」ことが可能になり、生物の「読み書き」ができるようになりました。読み書き操作が可能になったことで、生物学そのものが、最新であり最古でもあるメディアになりました。こういった新たなテクノロジーが引き起こしている、社会やモラル、倫理の問題に批判的に取り組むことがアーティストの役割であると、私は強く信じています。私は次回の文化庁メディア芸術祭の応募作品を楽しみにしています。また、海外からの応募が増えることを願っています。そして、応募作品のクオリティと深さに、いい意味で驚きたいと思っています。

プロフィール
Georg TREMMEL
Georg TREMMEL
1977年オーストリア、ブルゲンラント生まれ。ウィーン応用美術大学にてメディアアート、RCAにてインタラクションデザインの修士号を取得。2005年に福原志保とともにアーティスティック・リサーチ・フレームワーク「BCL」をロンドンで結成。東京を活動拠点とし、主にバイオテクノロジーの発展と水問題による社会へのインパクトと、私達の意識が自然・社会・文化それぞれの環境においていかに映し出されているのかを探索し、科学、アート、 デザインの領域を超えた活動を続けている。また「共同ハッキング」などのプロジェクトを通じて「閉じられた」テクノロジーや独占市場に介入し、それらを人々に開いていくことをミッションとしている。現在、東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターDNA情報解析分野リサーチャー、早稲田大学理工学術院・岩崎秀雄研究室主宰の生命美学プラットフォーム「metaPhorest」客員研究員。バイオテクノロジーの可能性について実践・議論するプラットフォーム「BioClub」プログラムディレクター。