第19回 エンターテインメント部門 講評
来るべき未来の予感を孕むもの
最先端のテクノロジーや技術的なトレンドにさほど詳しいわけでもない美術館の学芸員は、どのようにエンターテインメント部門の審査へ関わるべきか。個人的には情報化社会のメインフォーマットがスマホ+インターネット+SNSとなった現在、思考パターンや行動様式にある種の均質化が進み、コミュニケーションツールとしてもさまざまな問題を引き起こすなど、人間とニューメディアの「接続」にはまだバランスの悪いところが多くあると感じる。本部門は、多種のメディアプラットフォームを用いた作品が集まり、さらには「エンターテインメント」という概念の曖昧さもあって、メディア芸術の「総合百貨店」的な様相を呈していることから、僕にできることは、メディアと人間を取り巻く今の状況を多角的に問い直すことが可能な作品の「発見」しかない、と考えた。ゆえに作品のテーマやコンセプトはひとまず脇に置き、「バジェットの大小」や「テクノロジーの優劣」によるクオリティの差も度外視して、デジタルメディアそのものをメタ的に扱ったもの、メディアと人間の均整のとれた関係を映し出す作品の抽出を試みた。審査を終えてみると、今を生きる人々の無数の意識に寄り添い、その要請を敏感に反映する作品は予想以上に多く、その2015年的課題は、表現のジャンルを超えて、いくつかの共通する「キーワード」となって浮かび上がってきたが、時代の大きな転換期にあって、人間存在もメディアという環境も大きな「変容」のただなかにあることが見えてくる。「エンターテインメント」は「消費」という側面から逃れられない宿命を持つがゆえ、必然的にそこには「今」が内包される。その「今」に、来るべき未来の予感を孕むものが結果として賞、推薦作に残ったと思う。本能に作用する快楽もまた本部門受賞作ならではの魅力ではあるが、その多彩な表現のなかから、「私」と「他者/メディア」のこれからを考えるきっかけを、ぜひつかみ取っていただきたい。