19回 エンターテインメント部門 講評

来るべき未来の予感を孕むもの

最先端のテクノロジーや技術的なトレンドにさほど詳しいわけでもない美術館の学芸員は、どのようにエンターテインメント部門の審査へ関わるべきか。個人的には情報化社会のメインフォーマットがスマホ+インターネット+SNSとなった現在、思考パターンや行動様式にある種の均質化が進み、コミュニケーションツールとしてもさまざまな問題を引き起こすなど、人間とニューメディアの「接続」にはまだバランスの悪いところが多くあると感じる。本部門は、多種のメディアプラットフォームを用いた作品が集まり、さらには「エンターテインメント」という概念の曖昧さもあって、メディア芸術の「総合百貨店」的な様相を呈していることから、僕にできることは、メディアと人間を取り巻く今の状況を多角的に問い直すことが可能な作品の「発見」しかない、と考えた。ゆえに作品のテーマやコンセプトはひとまず脇に置き、「バジェットの大小」や「テクノロジーの優劣」によるクオリティの差も度外視して、デジタルメディアそのものをメタ的に扱ったもの、メディアと人間の均整のとれた関係を映し出す作品の抽出を試みた。審査を終えてみると、今を生きる人々の無数の意識に寄り添い、その要請を敏感に反映する作品は予想以上に多く、その2015年的課題は、表現のジャンルを超えて、いくつかの共通する「キーワード」となって浮かび上がってきたが、時代の大きな転換期にあって、人間存在もメディアという環境も大きな「変容」のただなかにあることが見えてくる。「エンターテインメント」は「消費」という側面から逃れられない宿命を持つがゆえ、必然的にそこには「今」が内包される。その「今」に、来るべき未来の予感を孕むものが結果として賞、推薦作に残ったと思う。本能に作用する快楽もまた本部門受賞作ならではの魅力ではあるが、その多彩な表現のなかから、「私」と「他者/メディア」のこれからを考えるきっかけを、ぜひつかみ取っていただきたい。

プロフィール
工藤 健志
青森県立美術館学芸員
1967年生まれ。青森県立美術館には準備室時代から在籍。専門は戦後日本美術。「美術」の枠組みや「展覧会」の制度を問い直す企画を多数手がけている。主な担当展に、「立石大河亞1963─1993」(1994)、「山本作兵衛展」(1996)、「縄文と現代」(2007)、「寺山修司◎劇場美術館」(2008)、「ラブラブショー」(2009)、「Art and Air」(2012)、「成田亨 美術/特撮/怪獣」(2015)など。「造形集団 海洋堂の軌跡」(水戸芸術館/台北市立美術館ほか、2004─)、「ボックスアート」(静岡県立美術館ほか、2006─)といった巡回展のキュレーションも担当。近年は静岡県立美術館・村上敬、島根県立石見美術館・川西由里と3名で視覚文化研究を行なう「トリメガ研究所」を結成し、「ロボットと美術」(2010)、「美少女の美術史」(2014)の2本の展覧会を開催した。編著に『青森県立美術館コンセプトブック』(スペースシャワーブックス、2014)など。