©2015 Bryan Wai-ching CHUNG

第19回 アート部門 大賞

50 . Shades of Grey

グラフィックアート

CHUNG Waiching Bryan

作品概要

本作は、プログラミング言語を使用した、コンセプチュアルであると同時に視覚的な作品で、額装した6枚のシートで構成されている。作者は、過去30年間に学んださまざまなプログラミング言語とソフトウェアを用いて、50階調の黒から白のグラデーションでできたまったく同じ画像を制作した。タイトルはオンライン小説として発表され、後にベストセラーとなった『Fifty Shades of Grey』という大衆小説を参照している。かつて広く普及していた数々のソフトウェア・ツールは、現在ではそのほとんどが使用されなくなっている。コンピュータ産業においてもデジタルアートにおいても、前時代的になることへの恐れはつねにつきまとう。作者は、それらのプログラミング言語の一つひとつと旧友のように接し、それを最新の機械のなかに取り込み、新しい外貌やエネルギーを与えて再活性化した。これまでに開発された異なるテクノロジーの盛衰を可視化する作品である。

贈賞理由

物質的存在感を持つアナログメディアに対して、デジタルメディアは、基本的には物質性を有さない。その代わり、その背後にはハードウェア=機械と演算という不可視な世界が控えている。そして、その両者をつなぐのがプログラミング言語である。『50 . Shades of Grey』では、黒から白への50階調のグラデーションを表示させるための6種類のソース・コードのみが展示される。それぞれまったく異なった視覚的特徴を持つ文字列は、ハードウェアでの演算を経てディスプレイ上で同一のイメージを導きだすだろうが、観者にその結果は示されない。印字されたコードは、多くの観者にとっては解読不能な、いわばデジタルイメージの無意識として提示されるだけである。作者によれば、6種の言語は、コンピュータ技術の進化と陳腐化の歴史を表象する。一方で作者と同じ1964年生まれのBASICから2000年のActionScriptまでの言語が、それぞれ作者の人生と重ね合わされて語られる。作品の見た目は、素っ気なくさえ見える簡素なものであるが、そこに異質な層が徐々に見えてくる豊かさが評価された。(佐藤 守弘)