第24回 アニメーション部門 新人賞
À la mer poussière
短編アニメーション
Héloïse FERLAY[フランス]
作品概要
フェルト製のパペットを使い、姉弟とその母親の不安定な関係を描いたストップモーション・アニメーション。荒涼とした砂漠に建つ質素な一軒家で、姉が弟の大きな耳を切り落とすと脅している。弟は泣きながら母親を呼ぶが、母親は車で走り去る。後日、再び喧嘩が始まると、母親はたしなめることもなく一人立ち去ろうとするが、子どもたちは置いていかれまいと車に乗り込む。静かに進み続ける3人だが、姉弟が父親について騒ぎ出したところで母親は動転して事故を起こしてしまう。愛情、不安、怒りが入り混じった母親の複雑な表情をフェルトの毛羽立ちによって表すなど、素材の風合を感情表現に巧みに取り入れてスリリングな物語を描いた。
贈賞理由
荒野の中に取り残されたように暮らす一家。ひたすら無邪気な子どもたちと死んだような目をした母親。3人の存在感のあやふやさはフェルトという素材感によってより強調されている。とりわけ母親の身体がほぐれていくさまは、自我を保とうとしている必死さと自暴自棄な投げやりさを象徴していたように思える。海に入り、泥を塗る行為は家族の距離が近づいたと同時に母親の吹っ切れた安堵も感じた。背後のドラマは関係ない、今そのときの感情の高ぶりに寄り添うような描写の数々に作者の若さがある。形容詞で映像をつくるってかなりのチャレンジです。(佐藤 竜雄)