第24回 アニメーション部門 優秀賞
泣きたい私は猫をかぶる
劇場アニメーション
佐藤 順⼀/柴⼭ 智隆[日本]
作品概要
中学生の笹木美代は、いつも明るく空気を読まない言動で、クラスメイトからは「ムゲ(無限大謎人間)」というあだ名で呼ばれている。しかし、本当のムゲは、周囲にいつも気を使い、あだ名とは裏腹に自分の感情を抑えて日々を過ごしていた。そんなムゲが熱烈な想いを寄せるのが、クラスメイトの日之出賢人。ムゲは毎日果敢に日之出にアタックを続けるが、まったく相手にされていない。しかしムゲは、ある夏祭りの夜に、猫の姿をしたお面屋の店主から「かぶると猫に姿を変えられるお面」をもらっていた。ムゲは猫の「太郎」になって日之出の家に通うことで、日之出の普段は見せない本音や素顔を知ることになる。アニメーション制作を手掛けたのは、デジタル作画を推進してきたスタジオコロリド。猫と人間の境目が曖昧になっていくムゲが、自分にとって本当に大切なものに気がつくさまを、質感豊かな手描きアニメーションと、3DCGが可能にした演出によって鮮やかに描いた。
贈賞理由
私たちは「伝える」ということの手段をどれほど持っているのだろう。冒頭の主人公の一見、突飛な行動に驚かされ戸惑うが、2人の監督の映画としての仕掛けであろう。難易度が高い「現実とファンタジーの入れ替わる表現」を、ありがちな仰々しさを敢えて抑えた演出で表現しているのも好感を持てた。あらゆる手段で果敢に進む主人公の抱えた想いと、それぞれの登場人物間のズレと、現実と逃避と挑戦とを強力なファンタジーという装置を使うことで、日常のなかで「伝える」ことの難しさをきめ細やかに軽やかに超えて重ねていく。この「伝える」という命題を、混沌に陥ることなく実にわかりやすく1本の映画に仕立てた手腕に、一観客として楽しませてもらった。齟齬なく伝えきれると、それは穏やかな心持ちになるでしょう。「伝える」ということはとても難しく大変なエネルギーを要する。それを思いがけない表現で伝えてくれた作品だった。(小原 秀一)