第15回 アニメーション部門 優秀賞
ももへの手紙
劇場アニメーション
沖浦 啓之
作品概要
「ももへ」とだけ書かれた手紙を遺し、お父さんは天国に旅立ってしまった。「ほんとうはなんて書きたかったの?」心ない言葉をぶつけ、仲直りしないまま父を亡くしたももは、その想いを抱えたまま、母・いく子と瀬戸内の島に移り住む。そこで出会ったのは、不思議な妖怪「見守り組」。食いしん坊でわがまま、でも愛嬌たっぷりの彼らには、実は大切な使命があった……。瀬戸内の小さな島を舞台に、主人公・ももに訪れる不思議な日々を描いた家族の愛の物語。
贈賞理由
日本アニメーションの屈指の実力が描く家族愛
日本が研鑽(けんさん)してきたリアル系アニメーション。そのクオリティの頂点に位置する作品で、リアルさを生活と同居するファンタジーものに応用した。デフォルメを抑制し、骨格や筋肉などを感じさせるリアルなキャラクターを用いることで、瀬戸内海の日常空間の中で妖怪たちが騒動を起こすという非日常性に説得力と実感をもたせている。妖怪の言動のユーモラスさや主人公の亡き父への後悔、母の抑制的な家族愛など言葉にしづらい感情の機微は、1枚ずつ丹念に描かれたレイアウトとアニメーション作画が支えている。原案・脚本・監督を兼ねる沖浦啓之によるオリジナルのストーリーは幅広い観客層に訴求するが、その魅力と感動が「動く絵で再構築された日本」と直結している点は、実に貴重に思える。アニメーション表現の力と可能性を改めて実感させた作品である。