© 2016 Alter developed by Ishiguro Lab in Osaka Univ. and Ikegami Lab. In Univ. Tokyo

第20回 アート部門 優秀賞

Alter

メディアパフォーマンス

『Alter』制作チーム(代表:石黒 浩/池上 高志)[日本]

作品概要

ロボットの持つ「生命らしさ」を外見だけでなく、運動の複雑さで実装した。『Alter』は42本の空気圧アクチュエータで構成された体と、年齢・性別が不明な「誰でもない」顔を持つ。その運動は、CPG(Central Pattern Generator:脊髄に存在し、歩行などの周期的な運動を生成する仕組み)をモデルにした周期的な信号生成器、ニューラルネットワーク(人間の脳の神経回路のしくみを模したモデル)、そして『Alter』の周囲に設置したセンサーによって制御される。『Alter』のCPGとニューラルネットワークにより生成された動作は、自らの周囲を認識する照度センサーや距離センサーの値にも反応し、なめらかでカオティックな身ぶりを見せる。「メカニズムも存在目的も生物とは異なる機械が、ときに生物よりも生命性を感じさせるのはなぜか?」という問題を提起する作品。

贈賞理由

人形も彫刻もロボットも、人が人を創ろうとする同じ欲求の顕われだ。それを創造と呼ぶのであり、そのための技術が芸術の原義だ。神は自らに似せて人を創ったとする宗教の存在も、人工知能や人工生命を科学として追究する態度も、等しくこの欲求に根ざしている。さて本作は、ハードウェア担当の大阪大学石黒研究室と、ソフトウェア担当の東京大学池上研究室の共作で、すなわちトップダウン的な制御と、ボトムアップ的な創発という、正反対な2方式のドッキングによる人の創造の現在形だ。完全制御と完全不規則の狭間に目指されたものは、環境をセンシングしながら自発的な動きが創発する機序の実装で、2016年夏の公開は実験と称された。実際、人に反応して流暢に喋るわけではない本作は、従来目指されてきたアンドロイド技術の否定でその意味では後退だが、それでも多くの観客が熱心に見続けたという結果は、挙動不審性にこそ生命性や不気味な美の一端が宿る証左だろう。この達成を評価した。(中ザワ ヒデキ)