第17回 アニメーション部門 大賞
はちみつ色のユン
ドキュメンタリー・アニメーション
JUNG / Laurent BOILEAU
作品概要
朝鮮戦争後の韓国では、多くの子どもが養子として祖国を後にした。その中の一人「ユン」は、ベルギーのある一家に“家族”として迎えられた。肌の色が異なる両親と4人の兄妹とともに生活を送る中で、フランス語を覚え、韓国語や孤児院での生活を忘れることができた「ユン」。そんな時にもう一人、韓国からの養女がやってきて“家族”に加わった。彼女を見て、「ユン」は自分が何者なのかを意識し始める―。韓国系ベルギー人のユン監督が自身の半生を描いたマンガをもとに、ドキュメンタリー映画監督ローラン・ボアローと共同監督したアニメーション。現代のソウル、そして1970年当時のユン監督が写された8ミリフィルムや記録映像による実写と、手描きやCGによる3Dアニメーションといった多彩な手法でシーンを描き分け、アニメーション表現の可能性を切り拓く。肌の色が違っても、血のつながりがなくても、愛に満ちている“家族”のあり方を本作は物語っている。
贈賞理由
昨今はやりの“自分探し” 物語とはひと味もふた味も違う作品である。肌の色の“はちみつ色”に込められた意味は多分に苦みも含まれていて複雑である。朝鮮戦争による特需で戦後日本が潤う中、韓国では戦争孤児が生まれた。その多くが欧米に里子に出されていた事実を隣国の我々は知らない。いやその想像力すら欠けていた。主人公「ユン」=作者が、捨てられた(のかもしれない)祖国=生母への思慕と、ヨーロッパ人家族(里親たち)の中の生活で独り異質である自らの心のゆがみを、作品は描いている。戦争や祖国の儒教的呪縛からもたらされた不運に対しても、また他人の不幸に手を差し伸べる確信的善意への反発をも、作者は抑制の効いた表現にとどめている。灰色の自己体験の表現をはちみつ色で中和して見せたのは作者の力量であろう。時代背景である事実の説明を実写映像が、作者自身の記憶と心情をアニメーションが織りなす形でつづられていく表現は巧みである。(大井 文雄)