第25回 アート部門 優秀賞

Augmented Shadow – Inside

インタラクティブアート

MOON Joon Yong[韓国]

作品概要

床10×10m、壁高さ6mのステージに影を投影する没入型インスタレーション作品。照明デバイスの動きをトラッキングすることで3D投影の視点が設定され、実物大の影の人物が投影される。ステージ上には、ドアや窓、壁、椅子などのオブジェクトが置かれており、それらの影が、現実の世界と「仮想」の風景をつないでいる。観客は、現実と「仮想」によって構築された世界を、手にしたデバイスで照らし出すことでストーリーに参加し、舞台上で「仮想」の風景に現れた影の人々と出会い、影響しあうことになる。影である彼らの身体は実際に見ることはできないが、舞台中央から窓の外を見ると、影の人物たちの色彩豊かな「現実」の世界を窺い知ることができ、本作を鑑賞する観客は現実の世界から影としての彼らを観察しているが、彼らもまた「現実」から観客を観察していることが明らかになる。同時に、ほかの観客も外から舞台を観察している構図となっており、観客は自分自身が物語の一部であることに気づく。

贈賞理由

影は光学的な現象であり、幽玄ではかないものでありながら、特定の表面に投影されたときには強い象徴的・感情的な力を表すことができる。場合によって影は意味のある空間的な関係や緊張感を与えてくれる。影は映画の原体験とされ、古来より一貫して利用され、楽しまれてきた。このような長い伝統の延長として、作家は白と黒の世界で拡張現実技術によって仮想と現実が邂逅する没入型アートインスタレーションを制作した。観客は懐中電灯のようなものを用いて複数のレイヤーで構成された空間を探検し、その一部となるのだ。トラッキングデバイスによって、実際の人物や物の影に、仮想の影を重ね合わせる。観客は時に影の世界のバーチャルな人間とアイコンタクトをとることができ、それらのバーチャルな人間の映像が観客を見ていることが暗示される。映画でいえばゴダールの作品で登場人物が観客と対話しようとする瞬間のような、映像の未来を感じさせる作品である。(クリストフ・シャルル)