© Filme de Papel

第20回 アニメーション部門 優秀賞

父を探して

劇場アニメーション

Alê ABREU[ブラジル]

作品概要

ブラジルのインディペンデント・アニメーション界で活躍する作者による劇場アニメーション作品。主人公である少年とその両親は親子3人で幸せな生活を送っていた。しかし、父親は出稼ぎに出るため、ある日突然、列車に乗ってどこかに旅立ってしまった。少年は父親を見つけて、家に連れて帰ることを決意し、未知の世界へと旅立つ。そこでは、過酷な労働を強いられる農村や、きらびやかだが虚飾に満ちた暮らしがはびこり独裁政権が戦争を画策する国際都市が、少年を待ち受けていた。それでも、旅先で出会うさまざまな人々との交流と、かつて父親がフルートで奏でた楽しいメロディの記憶を頼りに、少年は前へ前へと進んで行く。一切のセリフもテロップも用いず、簡略化されたキャラクター・デザインと、クレヨン・色鉛筆・切り絵・油絵具などさまざまな画材を使ったパッチワークのような美術が組み合わされた映像は、言語の壁を超えて普遍的な訴求力のある作品となっている。

贈賞理由

映画に何を求めるのか?こんな問いかけが脳裏を過った。近年、長編アニメーションの多くが情報過多のなか、『父を探して』はその情報量の少なさから能動的に観るアニメーション映画だ。言語に頼らず、シンプルな絵本のような絵と民族的な音によって紡ぐこの作品は、少年個人から世界へと想像力を掻き立てイメージを増殖していく。物語は、「どこに、だれと、なぜに」など何の説明もないまま自由に展開し、やがて物語は原点に回帰する。悲観的なのか楽天的なのかも観る者に委ねられる。キャラクターや美術の省略化が、描かないことのすごさを、加えて語らないことのすごさも感じさせ、広々とした余白にこちらで何かを描かざるをえないクールな表現の作品だ。ただ、少年主観とはいえ対立構造と善悪が直線的でやや深みが足りないのが残念。また『戦場でワルツを』(監督:アリ・フォルマン、2008)同様に、実写映像がインサートされ想像力を限定してしまうのだが、より余白を追求しても良かったかもしれない。(西久保 瑞穂)