©Minetaro Mochizuki / Shugoro Yamamoto 2013
©望月ミネタロウ・山本周五郎/小学館

第17回 マンガ部門 優秀賞

ちいさこべえ

望月 ミネタロウ/原作:山本 周五郎

作品概要

『ドラゴンヘッド』『東京怪童』などで高い評価を受け、作品ごとに新たな挑戦を続けてきた望月ミネタロウが、原作付きに挑んだ意欲作。山本周五郎の時代小説『ちいさこべ』を、舞台を現代に移し新解釈を加えて描く。火事で実家の工務店「大留」が焼け、両親を亡くした若棟梁「茂次」。「どんなに時代が変わっても人に大切なものは、人情と意地だぜ」という父「留造」の言葉を胸に、「茂次」は大留の再建を誓う。そこに、身寄りのないお手伝いの「りつ」、そして行き場を失った福祉施設の子どもたちが転がり込んでくる──。髭もじゃの若棟梁が家業を継ぐことから始まるヒューマンドラマ。

贈賞理由

山本周五郎の時代小説『ちいさこべ』は文庫で70ページの中編で、映画・舞台・テレビドラマ化されてきた代表作のひとつ。火事で父母を喪い家業再興に奮起する若棟梁の「茂次」だが、周囲に助力を仰がない。その依怙地さはどこからくるのか。また、幼馴染との三者関係はどうなっていくか……。完結した原作はあるが、今後もマンガ版の「語り口」への期待は大きい。物語は静かに語られ、唐突なクローズアップの挿入や不思議なリズムの行動描写など、望月版は自在な演出が光っている。望月の前作『東京怪童』は少年少女たちの「ただならぬ気配」に満ちていたが、本作でも、「りつ」が引き受けた子どもたちは得体の知れないところがある。彼らとの絡み(原作では終盤まであまり描かれない)には主人公たちの「人情と意地」や「やるせなさ」が滲み出てきており、作品の大きな魅力となっている。
今となっては廃れていそうな言葉だが、「市井の人々の哀歓」を、現代ドラマとして描くに秀逸と、審査委員の見解が一致した。(斎藤 宣彦)