© Etsuko Ichihara / Photo: Masashi Kuroha

第20回 エンターテインメント部門 優秀賞

デジタルシャーマン・プロジェクト

ロボットアプリケーション

市原 えつこ[日本]

作品概要

科学技術が発展した現代向けに、新しい弔いのかたちを提案する作品。家庭用ロボットに故人の顔を3Dプリントした仮面をつけ、故人の人格、口癖、しぐさが憑依したかのように身体的特徴を再現するモーションプログラムを開発した。このプログラムは死後49日間だけロボットに出現し、擬似的に生前のようにやりとりできるが、49日めにはロボットが遺族にさよならを告げてプログラムは消滅する。このように、イタコのごとく故人が「憑依」したロボットと遺族が死後49日間を過ごせるように設計されている。作者は祖母の死を経験し、葬儀という弔いの儀式がもたらす残された人々への機能を実感して制作に至ったという。葬送の営みを通して日本人特有の生命や死の捉え方を探求するリサーチプロジェクトとして、実験を行なっている。日本の民間信仰とテクノロジーを融合させることをテーマにした作品群「デジタル・シャーマニズム」のひとつ。

贈賞理由

最先端技術の優位性に依拠した「目新しさ」の追求ではなく、あるテーマ、コンセプトの具現化のためのメディウムとしてテクノロジーを用いること。斬新なビジュアルによって脳に刺激、快楽を与え、ある時は視覚を通して身体までをも拘束していく先端メディア表現の多くと比較すると、市原は生々しい「生」の象徴たる身体にどこまでも寄り添い、デジタル技術を魔術的、呪術的に用いることで人間の本質的な欲望、そして感情や感覚を呼び覚まそうとしていく。それは「現代」という時代に縛られた人間の身体と意識を解放する試みとも言えよう。死という生命固有の機能に個々の記憶を参照させ、いくつもの「物語」を生み出していく本作は「作品」としての完成度よりも、そのコンセプトに価値がある。テクノロジーがいくら進化しても、人間はつねに物語を欲し、物語によって現実に対応していく存在であることを改めて認識させてくれる作品である。(工藤 健志)