第18回 マンガ部門 新人賞
どぶがわ
池辺 葵
作品概要
老婆の夢と現実を、情感豊かに描いた群像劇。「しあわせとは何か?」という問いに真正面から挑んだ作品。豪華なお城で暮らす美しい4姉妹は、美味しいごちそうを囲み、おしゃべりを楽しんで暮らしていたが、やがてそれは一人の老婆が夢に見る妄想の世界であることが明かされる。現実の世界では、高級住宅街の傍らにある臭気が漂う川沿いで、老婆はひっそりと暮らしている。頑(かたく)なで、貧しく、孤独な彼女は、決して周囲と積極的には関わらない。一人で生活をしているかのように見えても、彼女は日常の中で誰かとどこかでつながりを持ち、影響を与え合いながら生きていた。その町で暮らす人々の生活が淡々と描かれる中、小さな変化が訪れる―。
贈賞理由
老婆のみる夢と、やるせないことの多い現実との交錯。『繕い裁つ人』(講談社、2009年~)『サウダーデ』(同、2011年~)と作品世界を深めてきた池辺の、これは勝負作であろう。描かれた現実の様子の「綺麗さ」は審査委員の間で議論にもなったが、連作としての構成の巧みさ、エンディングの妙が評価として勝った。創作者にとって、夢や想像も現実である。池辺はすべてを現実として読者に差し出したのだ。(斎藤 宣彦)