©︎ Yamamura Animation / Miyu Productions

第25回 アニメーション部門 優秀賞

幾多の北

劇場アニメーション

山村 浩二[日本]

作品概要

「北で出会った人々の記録」として描かれた、断片的な記憶をたどる作品。「歌うつもりのない歌」「失ったフレーズを探す旅」「星々のまたたく天空137億年」など、印象的なフレーズに彩られた「北」の光景が、オムニバス的に紡がれていく。インクと色鉛筆の暗い色彩と、線が震えるアニメーションによる、いびつで不安定な姿をした人々は、苦悩や不幸に直面しているようにも見える。作家は本作で「近代の苦悩」の「神話化」を試みたと語っており、現代の世界が抱えているさまざまな問題にも通じる人間の営みの悲しさや滑稽さを描きながら、ざわめくようなアニメーションによって、そこに宿る生命のリアリティも強く感じられる映像ができあがっている。痛みと向き合うことをテーマとしたアニメーションを通じて、現実の世界への希望をつくり出そうとする作家の姿勢を、ひとコマごとの絵の積み重ねによって見る者に強く訴えかける作品。

贈賞理由

月刊誌『文學界』表紙として連載したイラストを、自らの手でアニメーション映画化。イラストは「長編アニメーションを構想しその一場面を描く」というコンセプトで描かれていたそうで、アニメーション化は必然だった。本作は語り手の羽根ペンを、2人の小人が抱えて歩き出すところから始まる。彼らは語り手に代わって無意識の領域を進む本作の案内人。本作では無意識の領域が、語り手の内面ではなく、「断片」を通じて世界のあり方を示した場所になっている。描かれる「断片」も最初は「風刺」とも思えるほど具体的だが次第に抽象度を増していく。そして一番深いところで世界は「語り手」とも結びついていることが語られる。寂寥感や不穏な空気を感じさせる画面だが、同時にユーモラスでどこか懐かしい雰囲気も漂う。主題のスケールの大きさと、このような表現の厚みは長編だからこそ到達できたものだ。(藤津 亮太)