©︎ 2019 CHENG Jialin / Tokyo Zokei University

第23回 アニメーション部門 新人賞

浴場の象

短編アニメーション

CHENG Jialin [中国]

作品概要

幼い頃に浴場で出会った、黒い象についてモノローグ形式で語られる作品。描かれるのは90年代後半の中国、工場が多く立ち並ぶ町の一角にある労働者のための浴場。ある日、いつものように母に連れられて浴場へ行った少女は、そこで小さなアリほどの大きさの黒い象を目にする。それ以来、浴場を訪れるたびにその象は少しずつ大きくなって少女の前に姿を現すのだった。時の流れとともに、その象が大きくなるのに対し、少女の住む町の建物や工場は取り壊されていき、ついには通っていた浴場も閉鎖されてしまう。手描き風のラフな線とカラフルでありながらも優しく淡い色調で、一昔前の浴場の空気感を、黒い象という曖昧な存在とともにノスタルジックに伝える。

贈賞理由

浴場という着眼点にひきつけられた。そこは人々が心も体も裸になる場所である。裸の大人たちの雑踏の中で少女が感じているもの、見つめているものが、手描きならではの自由な表現で画面いっぱいに生き生きと描かれておりセンスを感じた。特に、少女と象や大人たちとの大きさを比較させているアニメーション表現が良かった。少女が見つけた小さな象が何だったのか、見る側に委ねられているが、ある種の怖さもあり、淡々としたナレーションに、冷静に社会や人々を見つめている姿を感じさせ、作者の力と将来性を感じた。(横須賀 令子)