第24回 アート部門 新人賞
Ether – liquid mirror
インタラクティブアート、サウンドインスタレーション
Kaito SAKUMA[日本]
作品概要
計測された鑑賞者の心拍のオーディオデータがミラーに送られ、鏡面が振動することによって、心臓音が響く。ゆったりとしたテンポは徐々に加速していき、やがて水音を含むサウンドへと変わる。ミラーと鑑賞者のフィードバックは20分ごとにリセットされ、プログラムは沈静と覚醒をリピートする。普段知覚することの難しい鏡に映る自分自身の「生」を感じさせる同作は、新型コロナウイルス感染症によって劇的に変化する現代社会におけるさまざまな感覚を、改めて対象化する機会を提供するだろう。また、作品全体としてのモチーフは「子宮」、作者の第一子に対する祝福でもあり、未来へと向けられたものである。
贈賞理由
ステンレスの鏡面を、鑑賞者の心音とシンクロさせて振動させる。そこに映し出される自分の鏡像は、自分の心の状態によって歪んで見える。まるで白雪姫の悪い魔法使いの鏡のようだ。鏡面はフィードバックしつつ振動することでスピーカーとしても機能する。インタラクティブなこの鏡が、ソフトウェアではなく実際の物質だという点も高く評価したい。畢竟、生命も情報を媒介する物質あってこそ現実の世界に降り立つ。一見静かな瞑想的な作品でありながらも、深層学習などソフトウェアに頼りがちなメデイアアートの問題点を映し出す鏡でもある。(池上 高志)