第15回 マンガ部門 優秀賞
ファン・ホーム —ある家族の悲喜劇—
単行本・雑誌
アリソン・ベクダル(著) / 椎名 ゆかり(訳)
作品概要
著者と同名の、片田舎の葬儀屋の長女として育てられたアリソンを通して綴る自伝的グラフィック・ノベル。共に同性愛者で、また文学を愛する者として、共感を覚えながらもすれちがい続けた父と娘。とうとう和解を得ないまま父を喪ってしまったアリソンが、互いをつなぐ微かな糸を手繰る様子を、膨大な文学作品を引用しながら繊細な筆致で描く。「ニューヨーク・タイムズ」紙など数々のメディアがその年のベストブックと絶賛し注目を集めた。
贈賞理由
淡々と深遠に語られる家族と性
この作品は読み込めば読み込むほどに「はまる」。最初はマンガで描くべき作品だったのか?という根源的な疑問が湧き、次には文字を追うほどに、ここに絵が付加されていなかったらどうだったかと考えてしまう。読む側に与える効果を考え尽くした日本のマンガに比べて読みづらさがあるにもかかわらず、この作品の深度に驚きながらやめられずに読み進めた。扱ったテーマがリアルで、描写が正直であることも興味を引く理由ではあるが、賞する理由の最も大きなことは、日記と文章と絵、この3つの要素がこのように絡み合わなければ、この作品は描けなかったのだという確信だった。決して美しいとか説得力があるとかいう一般的なことでなく、「必然」という強い力により、飾り気が一切なくハードとさえいえるこの物語を、完璧に終結させたことは称賛に値する。