©石塚 真一

第16回 マンガ部門 優秀賞

岳 みんなの山

石塚 真一

作品概要

山岳救助ボランティアを務める「島崎三歩」は、世界の山を登り、山の厳しさ、山の楽しさ、山の美しさを知る男。彼の住む北アルプスでは、たくさんの登山者が、山頂を目指し登山道に入る。「良く頑張った」「また山においでよ」。彼の言葉に登山者たちは元気をもらい、日常に帰っていく。そして山を愛する気持ちを新たにして、また山にやってくる。訪れる山に魅せられた人々とともに、三歩は大好きな山の暮らしを続ける。山を愛する人を、山で死なせないために、今日も三歩はアルプスの稜線を走り続けている─。この物語は最高の山男を描いた優れた山岳漫画として多くの読者を惹きつけた。

贈賞理由

世界中の山を登った経験をもつ青年「島崎三歩」の、山岳救助物語。嶮しい勾配の、苦しさと楽しさ。山頂の絶景と開放感。山の素晴しさ・厳しさを、マンガで描くのは難しい。自然の描写に技術を要し、身体の動きもリアリティをもって描きだすのは至難の業だ。村上もとか『岳人列伝』、夢枕獏原作・谷口ジロー画『神々の山嶺』といった記念碑的山岳長篇の高き峰に連なる作品として、『岳』は早くから評価されてきた。「良く、頑張った!」に代表される、三歩が遭難者にかける言葉は、各人の「山」への接し方(結果的に悲劇であれ、ホッとする救助劇になるのであれ)を、愛情をもって包み込む。作品に接することが、山そのものの懐に抱かれているようで、読後感がよい。高度な水準を保ちながら作品を完結に導いた、その総合的な力が評価を受け、贈賞となった。