第18回 マンガ部門 大賞
五色の舟
近藤 ようこ/原作:津原 泰水 [日本]
作品概要
津原泰水の傑作幻想譚(たん)が、近藤ようこの手によって儚くも鮮烈にマンガ化された作品。先の見えない戦時下、太平洋戦争末期を時代背景に、見世物小屋の一座として糊口をしのぐ異形の者たちの哀切な運命が描かれる。主人公は、脱疽(だっそ)で足を失った元花形旅役者・雪之助(ゆきのすけ)、一寸法師だが怪力の昭助(しょうすけ)、結合双生児だったが手術を受け一人蛇女として生きる桜(さくら)、膝関節の障害を逆手に牛女となった清子(きよこ)、そして両腕のない少年・和郎(かずお)の5人。彼らは古い舟を住処(すみか)として、まるで家族のように暮らしていた。ある日、未来を言い当てるという怪物・くだんの噂を知った雪之助は、一座の仲間にしようと家族総出で岩国に向かうことに。くだんは既に軍の手中にあったが、目を合わせた和郎は、その日から舟で海原を漂い、離合集散を繰り返す一座の夢を見るようになる。これはくだんの仕業に違いないと確信した和郎だったが―。小説での発表も困難と目された原作に、近藤ようこが挑んだ奇跡のマンガ化作品。
贈賞理由
長年にわたり、淡々と素晴らしい作品群を発表し続けてきた近藤ようこが、またしても『奇跡のマンガ化』と言わしめる作品をこの世に贈り出した。病気で両足を切断した元旅芝居の女形、元結合双生児の少女、両腕のない少年などの5人が、戦時下の混乱の中、見世物小屋の一座となり、顔が人間の牛・くだんを購入するため旅をする。舞台は広島、並行世界というSF的設定……。この少しの説明ですら発表の困難を感じさせる本作を世に出したのは、原作者・津原泰水の達成。原作者が、文章での発表でさえ没書を覚悟したという本作の視覚化に自ら望んで挑み、成功したのは、近藤ようこの達成である。近藤の、問題に向かう真摯な態度と創作意欲には感嘆せざるを得ない。世界に潜む残酷さもそのまま、読む者がこぞって美しいと評する品位と、ユーモアまでをも備え、生きる勇気を与えられるこの傑作に、何かを贈り返さずにはおれない。(ヤマダ トモコ)