© AIDA YU

第16回 マンガ部門 優秀賞

GUNSLINGER GIRL

相田 裕

作品概要

舞台は、地域独立運動とテロの嵐が吹き荒れるイタリア。政府の秘密機関「社会福祉公社」は、生きる希望を失った重症患者の少女を集め、サイボーグ手術を施してテロとの戦いの尖兵としていた。彼女らは記憶を消され、忠実化の洗脳を受けて、バディである担当官の男性と疑似兄妹を演じながら、戦いに身を投じていく。担当官への愛情は洗脳の結果なのか? 日常に感じる幸せは真実なのか? 個々のエピソードを通じて人間の尊厳について問いかける。担当官たちはさまざまな事情でキャリアを失い、秘密機関に流れついた過去を持っており、なかでもテロで肉親を失った兄弟の復讐を軸にして物語は進行する。美しいイタリアの風景のもと、テロリスト、一般市民、研究者、司法関係者……さまざまな人間たちの必死に生きる姿を描ききった、いわゆる「戦闘美少女」ものの枠を超えた、一大群像劇である。

贈賞理由

本作は商業的に成功したエンターテインメントであると同時に、深い射程で議論を誘発する。作中の少女たちの感情は「条件付け」と呼ばれる人為的操作によって植えつけられたものである。その感情は、彼女ら/読者たちにとってはかけがえのないものでありながら、つねにその人工性をつきつけられる。この設定の導入は、マンガが「キャラ」という表現装置─すなわち「人格・のようなもの」を感じさせる記号─を用いて、「人間」を描いてきたことへの批評的言及とも読める。この読みが許されるのであれば、約10年にわたり、この「困難な」物語を維持し完結させたことは、「マンガで物語ること」という困難に立ち向かった成果と言うこともできるだろう。