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第24回 マンガ部門 優秀賞

ひとりでしにたい

カレー沢 薫[日本]

作品概要

元祖キャリアウーマンとして大手企業の最前線で活躍、独身貴族として悠々自適の老後を謳歌していると思っていた叔母がまさかの孤独死。発見も遅れ、預金もほぼなく、遺されたのは段ボールひと箱という現実に、彼女に憧れていた35歳のOL⼭⼝鳴海は衝撃を受ける。独身は不幸なのかと婚活を始めるも、同僚から安易と指摘され、終活へと⼤きく軌道修正する。伯⺟と同じ轍は踏みたくないと、⼈⽣の最終勝者を⽬指し、懸命なフィールドワークのなかで、「よりよく死ぬにはよりよく⽣きる」ことを見出していく。将来への不安と死への恐怖、誰もが持ちながらふだんあまり考えないようにしている問題に正面から切り込み、実用性の高い情報を笑いとともに提供する社会派ギャグマンガ。結婚、老後、孤独死、現在問題視されるテーマに切れ味鋭く迫り、同時に世の中の「評価」や「常識」についても問いを投げかける。迎えつつある超⾼齢化社会を照射する一作。

贈賞理由

「死」と「笑い」という本来両立しがたい要素が融合し誕生した「笑って読める終活ギャグマンガ」。この類い希なる作品の成立を可能にしたのは、作者のずば抜けた言語センスだ。老後や孤独死という重いテーマに鋭く斬りこみ、令和を生きる読者に「死」に対する価値観の更新を迫る。シンプルだがニュアンスをよく伝える絵柄とテンポの良さ、マンガという様式のわかりやすさを存分に生かしながら、ほんのり漂うラブコメ感もエンタメとして絶妙のバランスだ。作者はデビュー作『クレムリン』(講談社、2010)を皮切りに、シニカルだが感動をよぶ『きみにかわれるまえに』(日本文芸社、2020)などユニークなマンガ作品を多数発表。またその卓越した言語感覚で『負ける技術』(講談社、2014)、『部屋から出ないで100年生きる健康法』(秋田書店、2019)などコラムなどの書き手としても活躍する、今最も注目すべき作家の一人だ。その作者が描く、尊厳をもって生きぬくための知識が学べる本作は、現代の大人必携の書といえよう。(川原 和子)