第18回 エンターテインメント部門 大賞
Ingress
ゲーム、アプリケーション
Google’s Niantic Labs(創業者:John HANKE)
作品概要
『Ingress』は、文化的なランドマークや、歴史的な場所、ユニークな建築物といった実在の場を取り込んで、現実の世界を多人数の同時参加型ゲームへと変えるモバイルアプリケーションだ。GPSと世界地図のデータベースを使ってゲームの中の仮想世界を、現実の世界と融合して体験することができる。ゲームの設定では、街中のあらゆる所に「ポータル」と呼ばれる別の次元への入り口があり、ポータルからは「エキゾチック・マター(XM)」と呼ばれる不思議なエネルギーが漏れ出ている。このエネルギーは、人類の文明に関わる歴史的な場から流れ出していて、より知的で創造的な力を人間に与えると信じられている。そして、このエネルギーは、人間以外の知的生命体からのメッセージを運ぶものである。ゲームのプレイヤーは、ポータルやXMを操る「シェイパー(形成者)」に対抗する「レジスタンス(抵抗勢力)」と、受け入れる「エンライテンド(覚醒者)」の二つのグループに分かれ、仲間と協力して地図上に組織の陣地を形成していく。『Ingress』は、ゲームを通して現実の世界を探検するうちに、他のプレイヤーと交流したり、世界中の文化的な価値が宿る場所にたどり着いたりすることが意図されている。
贈賞理由
インターネットは新しい文化を生み出す基盤となった。私たちはネットに常時接続された端末を持ち歩く生活を選択した。ネットはかつて想定されていた「仮想空間」ではもはやない。近年のメディア芸術では、この情報環境の中で「私たちはどこへ向かうのか?」を描くことが課題だった。これに対して『Ingress』は決定的なビジョンを示すことに成功している。このゲームは、多くの人々が共有している動的な地図に「エキゾチック・マター」という虚構を付加したものだ。この大掛かりな仕組みとシンプルな仕掛けによって、私たちは世界中のプレイヤーたちとともに、再び現実の路上を歩きはじめている。2万歩を歩いた日は足が痛むが、翌日は3万歩を歩けるようになる。明日はもっと遠くへ……! さまざまな手段を用いて活動領域を広げてきた私たちは、どこへでも行くことができるのだ。そして、その先々で世界がずっと豊かであり続けてきたという現実と出会う。『Ingress』は日常を旅行者の眼差しで再構築していく。(飯田 和敏)