©︎ Sakamoto Shin-ichi / Shueisha

第24回 マンガ部門 優秀賞

イノサン Rouge ルージュ

坂本 眞⼀[日本]

作品概要

2013年より連載された『イノサン』に続く歴史大河シリーズ『イノサン Rouge』が2020年に完結。激動のフランス革命を舞台に、死刑執行人のサンソン家に生まれた兄妹の生きざまを描いた。王家に代々仕える正義の番人でありながら、「死神」と恐れられ、忌み嫌われる家系を継いだシャルル=アンリとマリー=ジョセフ。王政が倒され、ギロチンによる恐怖政治の横行へと、価値観が大きく転倒するなかで、兄シャルルは家名を汚さぬよう、心を殺して処刑に臨み、妹マリーは強い意志と行動で、あらゆる既存の価値観に疑問を突き付けていく。対照的な2人の行動は、自らの生き方を問い、出自により定められた宿命に抗う人間の姿を浮かび上がらせる。実在の家系を自由な発想と現代的な感覚で描き出し、簡単には割り切れない世界のありようを伝えた。ペン入れから彩色まですべてデジタルで行うという極細密・美麗な作画が、グロテスクなシーンさえも美に昇華させ、作品をより魅力的なものにしている。

贈賞理由

壮大、美麗、唯一無二、圧倒的。ありとあらゆる賛辞がこの作品に贈られるものである。表現と技術において、マンガはここまでのことができると世界は知った。だが、同業の者として讃えたいのは、決して愉快でなく、むしろ人が目を背けてしまう題材に取り組み、その筆力で人の胸ぐらを掴み、ほかのどの作品を読んだときとも違う感情に読み手を向かい合わせるその胆力と勇気、決意である。この作品に対する評価は一様ではない。それこそ、読み手の数だけの反応と評価があると思う。「死」が人にとってそれぞれのものであるように。だが、この作品は「死」を通して読み手に強烈に「生」を問うていることは間違いない。「感情」を超え「本能」を強く揺さぶる、マンガ史に刻まれる名品である。(西 炯子)