第18回 エンターテインメント部門 優秀賞
Kintsugi
映像作品
APOTROPIA (Antonella MIGNONE / Cristiano PANEPUCCIA)
作品概要
本作は作家の自伝的な物語に基づいて制作された映像作品である。作者のミニョーネとパネプッチャは、2003年に人生を大きく変えるほどの交通事故に遭った。作中で、ミニョーネは長年使用してきた松葉杖を用いて情動的なダンスを繰り広げる。タイトルの由来となった「金継(きんつ)ぎ」とは、壊れた陶器の継ぎ目を金で覆い修繕する日本の技法だ。破損した物を修復し、その継ぎ目に新たな趣を見出すこの技法は、物質の尊さや美しさはそこに積み重ねられた時間に宿るという価値観に根差したものといえる。作中で金継ぎは、肉体的・精神的な回復のプロセスの詩的なメタファーとして引用されている。彼女の涙が「金色の樹脂」になって自らの傷を癒し、トラウマを受け入れて変わることで、新しい可能性が開かれていく―。彼らは冒頭のシーンをミニョーネ川の上流で、ラストのシーンを河口付近のひまわり畑で撮影している。金継ぎの技法と、作家自身のリアルな個人史とを重ね合わせ、一人の女性が再生へと向かうさまが描かれる。
贈賞理由
ダンサーと、ヴィジュアル/音楽作家のデュオによるコラボレーションワーク。その一人、ダンサーのミニョーネは、交通事故によってダンサーの命ともいえる身体に深刻なダメージを受けた。この作品に象徴的なモチーフのひとつとして登場する「金継ぎ」は、日本の伝統的な修復技法であり、破損以前とはまた異なる趣とその履歴に、美を見出し愛でるものだ。彼女の葛藤と闘いを「金継ぎ」になぞらえ、映像は展開していく。物理的な欠損そして絶望から再生へ―。異なるフェーズへと向かう再生への希望は、見る側の私たち個々の事情にも重ね合わされ、希望を与えてくれる。私小説には終わらない強さ、異質なモチーフを多彩な映像技法で提示していく方法、そしてそのクオリティは、技術と表現、身体と精神の融合を見せ、多くの作品の中でも峻立した異彩を放っていた。パーソナルな切実さの投影が、表層の表現以上に作品にリアリティを与え、普遍性に昇華されていると思う。(東泉 一郎)