第16回 マンガ部門 大賞
闇の国々
Benoît PEETERS / François SCHUITEN
訳:古永 真一/原 正人
作品概要
われわれの現実世界と紙一重の次元にある謎の都市群「闇の国々」。そこで繰り広げられる摩訶不思議な事件の数々を描く、フランス・ベルギーのコミック(バンド・デシネ[以下BD])の人気シリーズ。これまでに10の言語に翻訳され、多数の賞を受賞している。現在までに、正編12冊、番外編12冊の計24冊が刊行されており、日本語版第1巻となる本作『闇の国々』(2012年刊行)には、そのなかから3作品を収録。ある日突然増殖しはじめた謎の立方体に翻弄される人々を描く『狂騒のユルビカンド』、巨大な塔の秘密をめぐる冒険から、数奇な運命へと導かれる男を描く『塔』、未知の天文現象により、体が斜めに傾いてしまった少女の半生を描く『傾いた少女』など、あらゆる芸術への深い素養に根差した重厚なストーリーを、1ページに1週間かけるという、緻密にして技巧の粋を極めた絵で描く。
贈賞理由
ブリュッセルの同じ中学を卒業した2人の作家、絵を担当するスクイテンと脚本担当のペータースによるシリーズ『闇の国々』。各話に人間の主人公はいるが、異世界をまるごと作り出すこと─その構築された世界・建造物・背景─が本作の主役であるといえる。フランス語圏のマンガ=BDのかたちで発表され、イラストワークの緻密さとともに、すでに各所で高く評価されている。そのシリーズの全貌が、やっと日本で翻訳出版されはじめ、ペータースの脚本の素晴らしさとあいまって堪能できるようになりつつある。シリーズ最初の作品が世に出て30年近く経つが、本作は時空を超えて新しい。日本マンガは世界に誇る文化だと打ち出すならば、世界のマンガのレベルを知る必要があるだろう。本作はそれを知るにふさわしい作品。文化の違いに触れる喜びと、面白い作品は文化の違いを超えて共有できるという喜び、本作はそれを同時に感じさせてくれる稀にみる作品である。