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第19回 マンガ部門 新人賞

町田くんの世界

安藤 ゆき

作品概要

物静かで、周囲からは生真面目と思われているが、成績は中の下、運動神経は悪く、機械も苦手で不器用。そんな「町田くん」の日常を描いた作品。町田くん自身は、自分には「得意なことが何もない」と憂いているが、じつは周りの人々から深く愛されている。それは、「人を好き」で、誰にでも分け隔てなくそっと優しさを届けるからであり、彼の言葉や行動の一つひとつが周囲の人たちの心のすき間をそっと埋めていく。本作は、町田くんを通して見える世界を丁寧に描くことによって「人の温かさ」を感じさせてくれる。これまで主に短編作品を描いてきた作者の初の連載作品であり、少女マンガながら男女問わずに楽しめる作品となっている。

贈賞理由

候補作として挙がった少女マンガ群のほとんどが、読者の期待に応えるような華やかな「イケメン」を描いた作品で占められるなか、本作では勉強も運動も苦手、けれど人が好き、という新たなヒーローを登場させ、審査委員の注目を集めた。恋愛のみでなく主人公の生活を丁寧に追いかけることに重点を置いており、自身の描きたいことを誠実に描いていこうとする強い作家性が感じられる。デビューから11年のあいだに原作付き上下巻、短編集を3冊を出版しているのみであり、本作が初のオリジナル連載。寡作だった作者が、描き続けるという行為を経てさらに飛躍する姿を楽しみに待ちたい。(門倉 紫麻)