© Sacrebleu Productions

第18回 アニメーション部門 新人賞

Man on the chair

短編アニメーション

JEONG Dahee

作品概要

自らの存在を疑い苦悩する一人の男が椅子に座っている。記憶、空想と現実が交錯し、目の前の世界を疑っている自分自身こそが空想の産物ではないかという思いに捕らわれるようになる―。美術史を学ぶ過程で、座って思索する人間をモチーフにした絵画や彫刻に数多く出合ってきた作者はこうコメントする。“作中の「彼」は「私」が描いたものに過ぎない。では「私」も誰かに作り出されたイメージなのだろうか? ” 本作では、何世紀にもわたって多くの芸術家が「人間の存在」をテーマに、椅子に座る人間を描いてきたという発見から着想を得て、作者独自の解釈と洗練された手法で、これまでにない「椅子に座り深く思索にふける男」を描き出した。楽しげで斬新な視覚表現を用い、哲学的なタッチで展開される本作は、「我々がどこから来たのか、どこにいるのか?」そして「宇宙とは何か?」という実存主義的な問いを投げ掛ける。

贈賞理由

作者の「私」と、その「私」によって描かれた「彼」の世界とが無限反射を繰り返す。立方体の部屋の中と外側の宇宙、その裏と表がシームレスに同一平面をなすメビウスの輪のように、イメージが展開される。この作品構成の仕組みがとても面白い。終わりのクレジットが出始めるころから、時空間は逆回転をし始める。これは何を暗示しているのだろうか? 目を凝らして見てみるとこのような知的な仕掛けが所々に施されていて、なかなかに興味深い作品となっている。整理された中にも緊張感のある画面作りがなされている。(大井 文雄)