第17回 アート部門 新人賞
Maquila Region 4
メディアパフォーマンス
Amor MUNOZ
作品概要
本作は、格差社会を扱ったプロジェクト型の作品だ。作家自らがメキシコ郊外の貧困地域を手工芸品製作用のリヤカーで回り、アメリカの最低賃金(メキシコの10倍以上)で人々を雇う。雇用者は電子回路のモチーフを、通電性の糸で布地に刺繡していき、センサーに近付くと音色を奏でるアラームに仕上げていく。ひとつの製品を作成すると、労働者はそこへBiDiコード(QRコード)を刺繍する。このコードをスマートフォンで読み取れば、誰でも制作過程を記したウェブサイトを閲覧でき、労働者の名前、場所、作業した日や期間、l賃金、刺繡した回路図などの情報を参照することができる。現代社会における雇用者、労働者、消費者の関係性を浮き彫りにした作品である。
贈賞理由
今世紀に入って情報は瞬時に世界をかけ巡り、経済のグローバル化が進む一方で、貧困や格差はますます進んだと言われている。その格差問題にあえぐメキシコ出身の作家による作品は、暴力とも考えられるこのグローバリゼーションに抗うものと言えよう。大国アメリカと国境を接する自国の経済格差を明らかにしながら、「人の手」によって生み出された刺繡。そこに含まれるBiDiコード(QRコード)を読み取り、デジタル技術を用いることで「手」の持ち主の背景が語られ、我々の現代社会が抱える問題が見事に顕在化されている。(植松 由佳)