©︎ Chica Umino/Hakusensha

第24回 マンガ部門 大賞

3⽉のライオン

⽻海野 チカ[日本]

作品概要

東京の下町・六月町に一人で暮らす桐山零は、高校生にしてプロの将棋棋士。史上5人目の中学生プロデビュー棋士として周囲からは期待が集まっていたが、学校では孤立し、対局でも不調が続いていた。零は幼い頃に事故で両親を失っており、生活のなかでも盤上でも、深い孤独を背負っていた。ある日、先輩棋士の誘いによって酒を飲み酔いつぶれていた零を川本あかりが介抱したことがきっかけとなり、川本家のあかり・ひなた・モモの3姉妹と零との関係が始まる。母を亡くし助け合いながら生きる3姉妹との日々や、ライバルとなる棋士たちとの対局、高校の教師の計らいによって入部した放課後将棋科学部(将科部)での体験などにより、零の閉ざされた心境が少しずつ変化しはじめる。緊張感あふれる描写で表現された対局とともに、奥深い人間模様が零の成長を印象づけていく。棋士たちそれぞれが抱える複雑な背景や、いつも明るい次女ひなたのいじめ問題、3姉妹の追い出しを狙って現れた父、そして零とひなたの恋愛模様などを、ドラマチックかつスリリングな物語として紡ぎながら、詩情あふれるタッチでキャラクターの心模様を繊細に描く。

贈賞理由

将棋など盤上の競技は、身体的な躍動を伴わないため絵にしづらく、マンガでは対決や成長を心理的に描写する技法が厳しく問われる。本作は、心理描写に関するマンガ史上の豊かな蓄積を生かし、独自の工夫も加えて、日々を静かな闘争に生きるプロ棋士の内面のドラマを活写した。キャラクターの魅力も抜群で、闘争心と仲間意識をないまぜにした奇妙で愛すべき棋士たちの生態を、一級の群像劇に仕立てている。また、月島界隈とおぼしき墨田川の風景が時に温かく時に厳しく、主人公たちの心の動きを受け止め、盛り上げ、まるで川も芝居をするかのようだ。加えて恋愛や家族のドラマも濃密で、和菓子グルメの要素もあり、シリアスとコメディを往還しつつ盛りだくさんに描く欲張りな趣向ながら、煩雑さは皆無で、するりと心に届く。個別の技術の高さと全体のバランスを総合的に評価し、物語が大きな節目を迎えさらなる高みへ向かうこの機に、大賞をお贈りするものである。(表 智之)