夏休みの町

都会から離れた町の大学へ通う「ソウ」は、若さと暇な時間が合わさる唯一の時、大学生の夏休みを満喫していた。花火大会の場所取りのために友人たちと訪れた丘の上には、朽ち果てた戦闘機があった。ひょんなことから彼らはそこで老人に出会う。聞けば老人は第二次世界大戦中に戦闘機のパイロットで、未確認飛行物体“フーファイター”に連れ去られた戦友を捜すために「もう一つの世界」から来たと言う。老人の不可解な言動に戸惑いつつも、戦友捜しに協力することになった「ソウ」。そして目の前に“フーファイター”と呼ばれる発光体が現れた時、物語は一変してしまう。夏休みの間延びした時間の中に、突如入り込んだ非日常を淡々とした空気感で描いた作品。

夏休み、海の見える山に三人の大学生がやってくる。そこにいた老人が、放置されていた戦闘機にまつわる不思議な逸話を語った時から、物語は思わぬ方向に進む。懐かしさを呼び起こすストーリーはもちろん、夏の日差し、静謐な夜間飛行、夜空にはじける花火など、清潔感あふれるモノトーンの描写が素晴らしい。作中の消えた飛行士と同じく第二次大戦中にコルシカから飛び立ち不帰の人となったサン＝テグジュペリへのオマージュとも思われるが、その表現は斬新で温かい。他の作品でも注目を集める作者だが、このまま大きく羽ばたいて欲しい。（すがや みつる）