第21回 マンガ部門 優秀賞
ニュクスの角灯
単行本・雑誌
高浜 寛[日本]
作品概要
西洋文化の波が押し寄せる1878年(明治11年)の長崎で、西南戦争で親を亡くし、独り身となった少女・美世は、道具屋「蛮」で奉公を始める。外国人とのハーフである店主・小こ浦うら百もも年としがパリ万博で仕入れてきたドレスやミシン、双眼鏡、ブーツといった道具は、美世の好奇心を掻き立てた。美世は幼いころから持つ、モノの過去と未来の持ち主がわかる不思議な力を使いながら、仕事を通じて経験を重ねていく。百年に対して恋心に似た感情を覚え始める美世の変化や、明かされていく百年の過去を中心に、商人や遊女たちで賑わう長崎に訪れた新しい時代を瑞々しく描く。綿密な考証をもとに、当時の華やかな時代背景とともに事物が描き込まれ、ミニコラムとして作中に登場したアンティークに関する豆知識が挟まれるなど、作者の持つ知見が生かされ、作品の実在感が高められている。
贈賞理由
ドレス、チョコレート、ミシン、セーラー服、幻灯機……明治の初め、最先端の品々に触れ、主人公の「美世」が成長する姿を描く。熊本在住の作者は、これまで一貫して「手厳しい、容赦ない現実」を突きつける「問題作」を優れた筆致で描き続け、日本よりフランスなどで高く評価されてきた実力派。本作はその彼女が新たな境地から挑んだ「ロマンチックな雰囲気、華やかさ」を前面に漂わせてはいるが、読み進むうちに、やはり単なる「ヒロインの成長物語」ではなく、苛酷な現実が次々と読者の前に現れる。しかし悲壮感に溺れることはなく、全編を通じて響いてくるのは「現実から目を背けてはいけない」というメッセージと「大丈夫、おいで」という大人たちの遠い声だ。「世界は広く、自分はまだ何も知らない」ことが脅威ではなく素直な希望として描かれる。本作の大きな魅力がそこにある。(みなもと 太郎)