第17回 アニメーション部門 優秀賞
サカサマのパテマ
劇場アニメーション
吉浦 康裕
作品概要
「かつて、多くの罪びとが空に落ちた」と“空”を忌み嫌う世界・アイガに住む少年「エイジ」。彼が、夜明け直前の“空”を見上げていると、そこに突然、“サカサマの少女”が現れる。地底世界から降ってきた彼女の名前は「パテマ」。必死にフェンスにしがみつき、今にも“空”に落ちそうな彼女を助けようと「エイジ」はその手を握る。すると、二人は空へ飛び出してしまう。恐怖におののく「パテマ」と、想像を超える体験に驚愕する「エイジ」……。ちょうどその頃、“サカサマ人”が現れたという報告を受けたアイガの君主「イザムラ」は、治安警察の「ジャク」に捜索を命じるのだった─。天地が逆さまの世界に住んでいた二人の出会いを出発点として、驚きに満ちあふれたストーリー展開のもとに“真逆の世界”の謎を解く “サカサマ・トリップ・スペクタクル”。
贈賞理由
前作『イヴの時間』の室内ドラマ、人と機械を巡る哲学的テーマから一転、吉浦康裕による、視界に高く深く広がり、空から地下に至る大空間を舞台にした少女と少年の出会い(ガール・ミーツ・ボーイ)と冒険の物語。共同体的村落と管理社会的都市、地底と地上、光と闇、上昇と落下、破壊と再生など、いくつかの相反軸を重ね天地逆転の二つの世界を構築、優れたアニメーション表現を交えた存在感ある作品に仕上がっている。CGI全盛の実写映画に格好の設定でもあるが、大空へ落下する恐怖や天地反転の動的イメージ、浮遊感や落体感などの表現にアニメーションで描くことの意味がある。“重力”を見事に描いた、表現開拓の一成果でもある。マンガ原作や青年層を意識した作品が多い中、オリジナル作品で、大人の鑑賞に耐え成長後の再見が楽しみな良質な少年少女向け作品(ジュブナイル)としても秀逸。新人賞候補でもあったが、既に新人の域になく日本のアニメーション界を支える気鋭の才能とその成果として優秀賞がふさしいと判断した。(小出 正志)