©︎ Jonathan Hagard

第24回 エンターテインメント部門 優秀賞

諸行無常

VRアニメーション

Jonathan HAGARD / Nova Dewi SETIABUDI / Andreas HARTMANN / Dewi HAGARD / KIDA Kaori / Paul BOUCHARD[フランス/インドネシア/ドイツ/日本]

作品概要

インドネシアの首都ジャカルタにあると設定された架空の地区を舞台に、1980年頃から2020年にかけての街や人々の変化を描いたVR作品。ジャカルタが経験した都市、環境、政治、文化の移り変わりを、あるジャワ人家族が住む住宅周辺の景色として切り取る。カメラの視点は住宅の前庭を基点として、観客が360°自由にコントロールすることができる。住宅の周辺には植物が生い茂り、前面の通りには自転車や人力車だけが走っているようなのどかな村の様相だったが、時代の経過とともに次第にスクーターや自動車が増えていき、周りの建物は建て替えられていく。さらに高架道路や高層ビルがつくられ、電車も開通する。家の前でくつろぐ住人や通りで遊ぶ子どもの姿はいつしか消え、最後は現代的な商業空間となる。近年のジャカルタの歴史を淡々と振り返ることで、そのルーツと現況とのつながりを見出し、急速な発展を遂げる都市が抱える課題に対する理解を深めることを目指している。

贈賞理由

開放的な家屋、青々と茂る庭先の緑、そこに降る雨、ぬるい風にのって聞こえてくる音楽。あー、この懐かしいような空気感。私はインドネシアに展示や制作で2度ほど滞在したのだが、この国が持つゆったりとした雰囲気が好きだ。そう思って没入していると、時代の流れとともに風景が変化してくる。素朴な木造民家の風景から、それがコンクリート造りだと思われる平屋に替わる。広告やコンビニも登場し、宗教も移り変わっていく。なかにはLGBTを否定する旗なども登場し、私の好きなインドネシアから遠ざかっていく。後半に雨に浸されたストリートのシーンが出てくるが、これは何を表現しているのだろうか、私たちの活動による環境変化による気候災害だろうか、この先この地区の景色はどのように変化するのだろうかと考えさせられる。いかに都市、環境、政治、文化というものが移り変わってしまうのか、鑑賞者をストリートに立たせ肌で感じさせる、切なく啓発的な作品だ。(長谷川 愛)