第25回 マンガ部門 新人賞
転がる姉弟
森 つぶみ[日本]
作品概要
父親の再婚で小学生の弟ができることになった女子高生の宇佐美みなと。「とてもかわいい男の子」と言われて期待を膨らませるが、やってきた弟・光志郎は小気味いいほど天真爛漫で小生意気な8歳児。2人が少しずつ姉弟になっていくさまが、アナログの線を生かした温かいタッチで描かれる。光志郎と級友たちとの子どもらしい日常、幼馴染の男子高校生とみなとの淡い気持ちのやりとり……記憶の片隅から掘り起こされたような懐かしさを覚える描写が際立つ。両親が共働きのためいつも一人で食事をとる光志郎の友達、頑なな心をもてあます独り住まいのみなとの祖父など、現代的なテーマにも触れながらも、じんわりと心を動かされる話が紡がれるホームコメディ。
贈賞理由
好感の持てる読みやすい絵柄。デフォルメもかなり強く、冒頭とても残念なキャラクターとして描かれている弟の存在が読むに従ってどんどん深みを増していく。それぞれのキャラクターがどれもしっかりと設定されているので、何度読み返してもおもしろい。日常のありがちなエピソードのなかに潜んでいる感動を、ギャグを交えて炙り出していく表現。作者の心の温かみが滲み出ているよう。あんなに残念だった弟が後半は感動を生み出すとても大切なキャラクターへと印象が変化している。読者に普遍的に愛されていくであろう傑作。(島本 和彦)