第19回 アート部門 新人賞
算道
計算手法、パフォーマンス
山本 一彰
作品概要
「算道」とは、計算の宇宙を探求する道を指す造語。作者は、人間の認識の拡張を目指し、身体を用いた計算方法「論理珠算(ろんりしゅざん)」を独自に開発した。「論理珠算」とは四則演算はもちろんのこと、条件分岐や繰り返しなどの処理も行なうことができる計算完備な珠算であり、理論的な計算能力は日常的に使用されるノイマン型コンピュータと同等である。論理珠算を行なうための計算器「論理算盤(ろんりそろばん)」は、その上の「珠」という記号性と物質性を兼ね備えた存在により、計算という概念と身体の一体化を試みている。情報技術によりあらゆる物体が記号へと置き換え可能となった現代において、記号は実体として認識されうる。情報の操作方法を知ることは、記号化される自分たちの世界を見直す新たな視点を生みだすだろう。
贈賞理由
価値ある仕事である。精神活動の根幹である「情報とは何か」「情報を処理するとは何か」に肉薄しようとすれば、ライプニッツならずとも哲学は数学を介しコンピュータの発明に至る。作者はその行程を、人から計算を見えなくする既存の電算機を参照しながら辿り、ついに人が計算を見ながら行為する「非電気的算盤」とその用法として再発明した。ところでこうした探求は、なぜ真善美の真のみならず美としても積極的に有価値なのか。知覚や身体に関わるからだけではないだろう。これは鑑賞者が自問すべきであるが、作者山本の伸び代でもある。(中ザワ ヒデキ)