©Haruko Kumota / Kodansha

第17回 マンガ部門 優秀賞

昭和元禄落語心中

雲田 はるこ

作品概要

昭和を舞台に、噺家のいとおしき素顔を、絡み合う人間模様とともに鮮やかに描き出した作品。物語は、孤高の大名人「有楽亭八雲」と、そこへ押しかけ弟子入りした刑務所帰りのやんちゃ坊主「与太郎」、そして今は亡き「八雲」の盟友で“稀代の名人”とうたわれた「助六」の忘れ形見であり、親を失ってからは「八雲」に育てられてきた「小夏」の、3人による奇妙でおかしな同居生活から幕を開ける。弟子など一切取らなかったはずの「八雲」が突然「与太郎」を受け入れた理由や、「小夏」が「八雲」に募らせる激しい憎悪の背景といった深まる謎、若かりし「八雲」と盟友「助六」が落語に没頭していくさまを描く回想シーンも見どころである。圧巻の人間描写と、首筋がじっとり汗ばんでくるかのような臨場感あふれる落語シーンも魅力のひとつとなっている。

贈賞理由

落語をテーマにしたマンガは成功例が非常に少ない。噺を絵解きすれば古くさいし、落語界を描けばやぼでコソバユイ。落語という「語り芸」を、マンガという「もうひとつの語り芸」で見せるのは至難の業なのだ。しかし、本作第1巻の表紙を見たとき、「ひょっとしたら、これは……」という予感に襲われた。黒バックに冴えない表情の初老の噺家。そのあまりにも地味でどうしようもない男とともに描かれた一本のロウソクに、和ロウソクらしく「朱」が“さりげなく”入っている。それが、この「噺家」の渋さと粋と色気、歩んで来たであろう人生さえも匂わせているのだ。これまで見てきた数多くの「落語マンガ」が描き落としてきたものはこれなのだと思った。
作者はBL(ボーイズ・ラブ)マンガの世界がホームグラウンドらしいが、この『昭和元禄落語心中』は間違いなく彼女の代表作のひとつになることを確信する。六代目三遊亭圓生がモデルらしい師匠、「八雲」の薄暗いキャラは絶品である。(みなもと 太郎)