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©石黒正数/少年画報社

第17回 マンガ部門 優秀賞

それでも町は廻っている

石黒 正数

作品概要

東京の下町・丸子商店街を舞台として、女子高生「嵐山歩鳥」を主人公に、一見平凡だが、一風変わった日常を描く。メイドカフェならぬメイド“ 喫茶”「シーサイド」のメイドさん、探偵志望の女子高生、商店街の看板娘、少し頼りない姉……と多くの顔を持つ「歩鳥」。「歩鳥」がメイド喫茶でのアルバイト中に難事件を解決するドタバタ活劇を始め、「歩鳥」の先輩かつ親友「紺センパイ」が語る不思議な話や、「歩鳥」の弟で小学生の「タケル」とその彼女「エビちゃん」のエピソードなどが読み切り連作形式でつづられる。商店街、学校、家族の仲間が織りなすコメディ仕立ての連載は100回を超え、コミックは12巻まで刊行されている。SFチックな話から涙を誘う人情ものの浪花節まで、幅広い作風が楽しめる作品。

贈賞理由

「センス・オブ・ワンダー」を大切にしている作家である。『ネムルバカ』で描いた青春の鬱屈と爆発、『外天楼』で見せた探偵趣味と構造物への偏愛、『響子と父さん』で焙り出した微妙な家族関係・人間関係。更に、SF短編群における奇抜な着想や、連載中の『木曜日のフルット』における斬れ味鋭いギャグ。何らかの「ワンダー」のある個々の作品もこれまで評価が高かったが、2005年から連載中の『それでも町は廻っている』は、作者の美点がすべて揃っている、押しも押されもせぬ代表作である。大げさな事件や個人のトラウマを描かずとも、ドラマは描ける。愛すべき日常と人々のつながりは描ける。藤子・F・不二雄やちばてつやの作品群が持っていた、ヒマワリが太陽に向かって咲くような「向日性」といおうか、「明朗さへの志向」を本作で実現していること、水準以上の密度と面白さのエピソードを連載で毎回積み重ねていることが、審査委員全員の高い評価を受けた。(斎藤 宣彦)