©︎ Stefan Tiefengraber

第24回 アート部門 優秀賞

TH-42PH10EK x 5

メディアインスタレーション

Stefan TIEFENGRABER[オーストリア]

作品概要

約45分間かけて振り子のように揺れる5台のモニターと、そこから生まれる音、さらに音と連動する映像が組み合わさったインスタレーション。動作が停止すると、モニターはケーブルウインチで元のポジションに再度引き上げられ、リップコード(パラシュートを開くためのひも)を引くことで振り子動作が始まる。展示会場の監視員など人が介在することで成り立つ作品。振動音は振り子の接合部の摩擦を増幅させることで生成されており、5つが時間差で響きながら一体的な音となる。モニター上の映像は、アナログのオーディオ信号をアナログのビデオ信号に直接変換している。電圧と周波数は、スピーカーによって音として表される一方、モニターでは点滅する水平の白い線として表示される。コンピュータやエフェクト機器などによる信号の処理は行っていない。既存の機器と新しいテクノロジーを独自の手法で組み合わせることで、新たな体験を探究する。

贈賞理由

本作で驚くべきは、シンプルな物理現象が生み出す力の感覚そのものだ。その力が見る者に未知の情動を与えるのである。したがって、本作を「絞首台上の断末魔」といった人間的スケールに矮小化したり、アートを語る際の常套的な(作者自身も用いている)説明—タイトル中の「TH-42PH10EK」が指し示している工業製品(ディスプレイ)を、本来の目的とは異なる使い方をすることで、テクノロジーに潜在する別の可能性を暴露する—に回収したりすることは、必要がないように思われる。明滅する光、巻き上げられる際の軋み、大きく揺さぶられるときに発する轟音、ひとつまたひとつと重ねられる周期、そして静寂。何ひとつ不思議なところはなく、何ひとつ説明できないものはない。にもかかわらず、それは説明を超えた何かを感じさせる。そこに本作の重要性はある。文字、テキストによる説明によってかろうじて成立している多くの作品に対して、本作は際立つ個性を放っていた。(秋庭 史典)