第25回 マンガ部門 優秀賞
北極百貨店のコンシェルジュさん
西村 ツチカ[日本]
作品概要
「私、秋乃が勤めるこの百貨店には、あらゆる動物のお客様がいらっしゃいます。中には少々見なれないお客さまも……」。訪れる客がみな動物という「北極百貨店」に勤務する新人コンシェルジュの秋乃が、接客業を通じてコンシェルジュ精神とは何かを学び、成⻑していく姿を描く各話読み切りの連作。店員は人間だが、客は動物という不思議な百貨店には、絶滅動物が訪問して、探し物や困りごとをコンシェルジュたちに相談する。機転を利かせながら、笑顔で客たちの問題を解決していく秋乃。そして気難しかった客も秋乃の誠実さに触れるなかで変化していく。職業ものジャンルと動物マンガの要素を掛け合わせて美麗なグラフィックでまとめ上げた本作は、百貨店という華やかな場で着飾る客の衣装やアールデコ様式の百貨店などの美術設定も大きな魅力だ。物語の背後には人類の大量消費社会や環境破壊といった問題への批評的なまなざしも潜み、読者の思考を刺激する。
贈賞理由
幻想的な世界観を独特なセンスで描く、ヒューモアあふれる物語。登場キャラクターの一部は、すでに絶滅種となってしまった動物で、彼らは人間の傲慢な過剰消費の象徴と言える百貨店に客として訪れてくる。画風はとても素敵で、絵本作家エドワード・ゴーリーへのオマージュも感じられる。その線の書き方には目を奪われてしまう。本作品の作者である西村ツチカの強みは、かわいい動物が、ただ単にかわいいだけではなく、動物のキャラクターがそれぞれにしっかりとした個性を持ち、人間に負けない人格が顕になっているところである。そういった動物たちは記憶に残り、物語全体を読むと、不思議と癒しを覚える。それは、ほっこりするような、そして時に切なくなるような経験である。登場する自然動物たちに感情移入しながら本作を読むと、誰もが過剰消費による環境破壊を意識するようになるだろう。(杉本 バウエンス・ジェシカ)